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『歩き出しなさい。美夜』
この声は……!
その瞬間、周りの音が聞こえなくなって、自分の呼吸さえも全て、無になった。何処からだ?あの声は、聞き間違うわけがない。
忘れるわけも、ない。
辺りを見渡してみる。
何処だ?
すると、太陽の破片のような眩しい光がキラキラと視界に入ってきて、俺は振り向いた。
教会の上の方にあるスタンドガラスの反射だった。その光が、入り口のドアの方に当たってスポットライトのようになっている。
そこに、萌梨が立っていた。
手を前で組んで、微笑んでいた。
萌梨…!
『絶望と苦しみを与えたあいつのこと、もう忘れなさい。それが、私が望んだ未来。結末。あなたが、幸せになること。それだけを考えてた。もう、いいでしょ。十分苦しんだ。だからもういいのよ。その全ての苦しみは、私たちが持っていくわ』
萌梨の言葉は、頭の中に入ってくる。
優しくて甘いトーン。懐かしくて、愛おしい。
その姿は、やがて白い光の中に消えていくと、完全に消える前に、一瞬だけ俺と目が合った。
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