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【都内C区某所】
エレベーターから眺める景色は、今日も変わらない。
〈F18〉
音もなく扉が開いて、大きな窓からたっぷり自然光を取り入れた、観葉植物があちこちに点在する広いオフィスが眼前に開ける。癖のある早足が発する靴音は程よく柔らかい床に吸収され、職場の快適な静寂を保っていた。
「ご苦労様です」
「ご苦労様です。今日も暑いですねえ」
すれ違う若い職員と交わした何気ない挨拶に、
『現在の室温は28℃、湿度73パーセント。空気調節を開始します』
『暑い』という単語に反応した人口音声によるアナウンスのあと、辺りの空気が早速ひんやりとし始めたのを感じながら、ハマザキはドアを開けて自室へ入った。
すると席に着く間もなく背後のドアが開き、
「ハマザキ、ちょっといいかな」
「何ですか、ウラサキ氏。慌ただしい」
「昨夜データセンターで起きた件のことなんだが」
「ああ、ちょっと待ってくださいよ。朝は新法案処理プログラムの擦り合わせがあって読めなかったんです」
鞄の中から革張りの手帳を取り出して開く――虹彩スキャンが瞬時に済み、立体画面が浮かび上がった。画面の中には赤いアイコンが点滅するメールが何件も入っており、ハマザキは「あらら」と頬を緩めた。
「大ごとですねえ」
「こんな時にのんびりとできる人間は君だけだよ」
ウラサキの渋い顔をちらと見て微笑み、
「状況は?」
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