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その後は、それぞれ見て回り、特に買うでもなくダラダラと過ごしてから、cafeに入った。
すると火朽くんが、ケーキの並ぶショウケースを一瞥し、嘆息した。
「やはり――普通のcafeとは、こういう美味しそうなケーキなどが並んでいてしかるべきですよね」
「うん? まぁ、大体並んでいるか、メニューに載っているとは思うけど?」
「僕も、とあるcafeを知っているのですが、ほぼお客様が不在で」
「そうなんだ? バイトをしてるの?」
「え、ええ、まぁ。一応、そうなりますね」
僕は何気なく頷いた。本日は、火朽くんが東京から来た事や、バイトをしているといった、プライベートな話をしている。学内では講義の話が多かったから新鮮だ。
同時に――ボッチの僕には、こうした雑談が貴重すぎて、非常に楽しい。
「所で、明日は、火朽くんは、どんな所を見て回りたいの?」
「最終的には、この都市の全ての貴重な史跡を見たいですが、まずはそうですね……」
僕が尋ねると、火朽くんがアイスティのストローをくわえながら、思案するような顔をした。
「――僕としては、御遼神社の敷地にある、要石を祀る祠や、その近所にあるという首無しの八地蔵、ムシオクリ資料館といったものに興味があります。ただ、神道の関連だと思うので、紬くんは玲瓏院家という名高い仏門の方ですし、やはり宗派が違うと問題がありますか?」
その声に、僕は軽く首を振った。
「特に僕は気にしていないから、大丈夫だよ」
「そうですか。では、明日は、御遼神社の周辺を案内して下さい。よろしくお願いします」
僕の返答に、火朽くんが微笑した。
実際に構わないのだが――それよりも、休日に、僕になんの予定もないと確信している様子の火朽くんを見て、なんだか悲しくなった。実際に予定はゼロだけど、僕って暇そうなんだろうか?
こうして行き先も無事に決まり、この日は別れた。
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