1.憧れの自分

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1.憧れの自分

 日曜日の朝。  小さな狐の神様である狐乃音は、テレビの前にちょこんと正座をしていた。ちゃんと部屋を明るくして、テレビから距離をとったところに、厚くて紫色の座布団を敷いた。  少し気が高ぶっているのか、ふわふわの尻尾が左右に揺れている。けれど、本人はそれに気づいていないようだった。  これから始まるのは、一週間ぶりのお楽しみ。  通称『ニチアサ』と呼ばれる、アニメ及び特撮タイムの始まりなのだ。わくわくした気持ちが込み上げていく。 (始まりました)  狐乃音のお目当ては、プリギアと呼ばれるアニメだった。  それは、第一作が始まってから、かれこれ十数年はたっているという、人気の女児向けアニメシリーズだった。  作品によってキャラクターやストーリーは変わるものの、若い女の子がプリギアという名の華やかな戦士に変身して悪と戦い、みんなの笑顔と平和を守るというパターンになっていた。 (プリギアさんはみんな可愛くて、強くて、格好いいです!)  ある時、狐乃音はお兄さんにテレビで見させてもらったのだが、すぐに大好きになっていた。 (すごくかわいいです!)  みんな、カラフルでフリフリな衣装に身を包んでいる。  リボンをふんだんにあしらっている様は、まるでアイドルのよう。  勇ましく、力強く戦う姿に、狐乃音は憧れた。自分もこうなりたい、と、強く思った。  ヒロイン達が着ている衣装は洋風で、狐乃音が今着ている紅白の巫女装束とはまた違った雰囲気だ。  でも、それもまた良い。純粋に、着てみたいと狐乃音は思うのだった。 「狐乃音ちゃん。後で、お買い物に行かない?」 「あ、はい~。行きます~」  お兄さんは、急がなくていいよと優しく言ってくれた。ゆっくりとアニメを楽しんでいてねと。  そして程なくして、元気のいい、オープニングテーマが流れていく。  狐乃音はふと、思う。  アニメの中で、誰かが言っていたのだ。プリギアとは、女の子にとって憧れの自分を描いた姿のことだそうだ。 (憧れ……)  果たして、自分はどうだろうか?  自分の場合、憧れの姿とは、果たしてどんな感じになるのだろうか? (うーんと。えーと……)  なんとなく、漠然としたイメージはあるものの、じっくり考えてみないことにはいい案が思い浮かばない。  とりあえず、考えるのは後にするのだった。  今はとにかく、楽しもう。 「プリギア! 頑張ってなのです~!」  狐乃音は、画面に向かって元気よく声援を送るのだった。
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