ー7月11日ー

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ー7月11日ー

翌朝。自宅からノースイースト署まで車を走らせながら、昨日の事件のことを考えていた。あの現場で感じた違和感は何だったのか。一つはアンドロイドの存在だろう。その他には? 仮に、アンドロイドが犯行時に強い憎しみの感情を持っていたとして。いくら周りが見えなくなっていたとはいえ、凶器にフォークを選ぶだろうか。もっと使いやすい道具が身近にあったはずだ。テーブルの上の花瓶や、キャビネットに飾られていた置物など。これらを使用した場合、殺害方法は刺殺ではなく撲殺になるが。 被害者の傷にも不自然な点があった。左の眼球を一突き。司法解剖の結果を待たなければ正確なことは言えないが、その他に目立った外傷はなかったように見受けられた。つまり、人体の急所を驚くほどの冷静さで狙ったことになる。これは凶器の選択と矛盾しているのではないか。 アンドロイドの誤作動だったと仮定する。やはりしっくりこない。針の穴を通すような精密な犯行が、故障により偶然引き起こされたとは考えにくい。 いずれの仮説も疑問が残る。だが、結局のところ責任を問われるのは、アンドロイドを製造したSR社か。事件の特殊性から、市警本部の方に捜査権が移るかもしれないなとぼんやり思う。 ーーまさか上層部が表面上、事件が解決したことにしようとしていたなどとは考えもしなかった。 その日、いつもより早めに出勤したところを署長に呼び出され、事件について異例の措置が取られることを告げられた。
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