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虐待がリストカットの始まりだった
幼少時代から母のぼくに対す暴力は続いた。
平手打ち、げんこつ、外に放り出す……。
ぼくがお母さんの望むようなこどもじゃないから、いけないんだ。そう思っていた。
母が怒り任せに投げつけたカッターナイフがぼくの太ももに刺さった。
ごめんなさい、ごめんなさい、おかあさん……。
傷だらけの体。でも、なによりぼくをつけたのは、言葉の暴力だった。
9歳の夏の日。
「お前なんてね、産まれてこなかったらよかったんだよ。自殺しな。ほら、早くしなよ」
差し出したされた包丁の先端に目をやる。
「あ、おまえなんか自殺する勇気もなかったな。」
そういうと、包丁を片付け、どこかに出かけていってしまった。
ぼくは死なないといけないんだ。
生きていちゃだめなんだ、おかあさん……。
扇風機すら使わせてもらえない汗だくのぼくは勉強机にむかい、ただ、憂鬱で、死ななければいけないこと意外、何も考えられずに座っていた。
……
死ななきゃいけない。
ぼくはゆっくりと机の引き出しを開けた。鉛筆と消しゴム、そして鉛筆削りにハサミ……。
ぼくは、カッターナイフを手に取った。
心臓の音が、徐々に大きくなってゆく、そして早くなってゆく、まるで口から飛び出してきそうなほどに。
カッターナイフを握っている右手の汗は、夏のせいじゃない。暑いのに手が震える・・・。どうしたんだ、とまれ、ぼくは死なないといけないんだ……。
―おまえなんか自殺する勇気もなかったな―
おかあさんの言葉をぼくは頭の中で繰り返し思い出す。
ドラマで見たことがある。
左手を浴槽につける人。
血の海になったバスタブ。
浴室に転がった包丁。
ぼくは、左の手首に刃をにあてる。
目の前が真っ白になった。
カッターナイフを少し強く当て、手前にゆっくり引いてみる。
一瞬の鋭い痛み。
痛みがぼくを見捨てるのは早かった。一ミリメートルずつ、慎重に切り進める。刃の軌跡から、少しずつ血が出ている。そして、血は手首からひじの方へ流れた。夏の日差しよりも暖かい。
十数年後。ぼくは精神科の看護師になった。
リストカット。自傷。
なぜそんなことをするのか、世間は問う。
精神科医療は時に冷たい。
「かまってちゃん?病んでますアピール?」
笑顔でナースステーションで話す先輩たち。
ぼくは、患者さんの体の傷跡を、心の苦しみの訴えとおもってうけとめている。
こころからあふれ出た苦しみの表現、大切なメッセージだと思って。
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