其の三 サル山事情

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さざ波のような声は、波動のように大天狗たちにも伝わる。 それは、飯綱大権現が一つも怒っていないこと、むしろ喜んでいることを伝えてきていたので、智多勝はこれ以上華煌の言い分を不敬扱いできなくなった。 大権現自らが不敬ととっていないのだから、仕方がない。 そうした上で、華煌は今度は慧讃羅に向き合った。 「慧讃羅様は、猿というよりメス猿というところに引っかかっておいででしょうか。」 「おう。神聖なお山に女はいらぬ!」 「はて、このお山はいつより女人禁制になりましたやら。」 「それは・・・暗黙の了解というやつではないか!修行の邪魔である!」 「そうだそうだ!」 慧讃羅の勢いに乗って、吉津太郎がまたしても反対を唱え始めた。 華煌は、再びはて?とわざとらしく首を傾げる。 「隠態ではたまたまこのような姿形をしておりますが、本来我らに性別の区別なく、それが故に女人禁制などという決まりごとはなかったはず。若輩者ゆえ不明なことの多い身、先達たるたる皆様方に教えていただきたい。過去に女人禁制と決められたことがおありでしたでしょうか。」
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