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翌日。 目覚まし時計が鳴り、目が覚めた。 今日は面接日だ。 昼からだが、何とか今日面接を受ける会社できっちりやり直したいので、朝から緊張感が身体に走った。 だがその時、隣の台所から何やら物音がしたので神経を尖らせて警戒した。 すぐに台所の方に目を向けて、ゆっくりと近づいた。 鋭利な包丁の音がする。 しばらくして、台所に、包丁で豆腐を刻む女の背中が見えた。 有希…。 有希は振り返ると、 「おはよう」 と変わらない笑顔でこちらに言い放ち、また豆腐を刻み始めた。 この台所では、これまで何度も何度も見慣れた背中…。 「いいのか?」 「いいのよ。ここが私の場所だから」 有希は少し微笑んでから、また背中を向けて豆腐を刻み出した。 有希が黙って、そこに居てくれる。 有希を、必ず幸せにしてみせる…。 あの時… あのラブホテルの前で、赤いマフラーをした有希に会っていなかったら、もう二度と会えなかったろう。 奇跡のような偶然の再会… いや、偶然じゃない。 あの時、訳の分からない傘の大群に拉致されて、あのホテル街に叩き落とされたのだ。 都市の高層ビル街の空を飛び交う、空飛ぶ傘=スカイアンブレラ。 そんな都市伝説を聞いたことがある。 ある時、人は、それを目撃することが出来る。 終
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