1:夜は勝手に明けていく

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 4階へ行く前に、一気に屋上に上がる。エレベーターを降り、目の前の階段を上がり、灰色の細い扉を開くと、冷たい風と車が車道を通る音が、ゴウッと出迎える。  午前中の太陽が斜め左から俺の肩辺りを焦がす。触ると熱い。しかし頬に受ける風は冬の気配を見せていてちょうどいい。  特に見晴らしがいいわけではない、なんの変哲もない雑居ビルの屋上を俺は気に入っていた。帰りはよくここでぼんやり過ごすこともあった。訪れるのは久しぶりだ。  マイスター教育訓練校のA支部の長から、D支部事務科担任と兼任になった。真新しい校舎と古いビルを行き来する生活にも慣れてきた。いよいよ明日が開校式だ。  しばらくの間、懐かしい景色と下を通っていく車をぼーっと観察してから、再びエレベーターに戻った。4階を押す。 「うわぁ」  4階に到着すると、すぐ目の前に人が立っていた。俯いて降りようとした俺は、急いで半歩横へのく。 「ごめんなさい!」  相手の女性は大声で謝った。髪を簡素なゴムでひとつに結び、抱っこ紐で赤ん坊を抱いている若い主婦である。それだけで、俺は彼女の用事がすぐにわかった。
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