第1章 流転

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第1章 流転

 その日は快晴だった。  天正十年、六月二日早朝。  大和守護職である筒井順慶は、大和の郡山城から織田信長の命で京都本能寺を目指し馬を歩ませていた。  博多の豪商島井宗室を招き、信長秘蔵の茶器三十八種を披露する豪華な茶会に参加する為である。  信長父子に加え、近江坂本城主明智光秀、丹後宮津城主細川藤孝等、詳細は分からぬが堺見物を終えた浜松の徳川家康も招かれるらしいと耳に入ってきていた。  政治色の色濃い茶会。  主賓が博多の豪商島井宗室であるのは、長宗我部と毛利を制圧した後の九州討伐を見据えた懐柔策ともいえた。  片や島井宗室には、信長が欲する天下三肩衝の茶入れ「楢柴肩衝(ならしばかたつき)」を献上する事で、天下統一に王手を掛けた権力者の強い庇護を得ようという狙いがあった。
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