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考え込んでいた割には、あっさりとそう言われ琴音は拍子抜けした。
「え、そうなの?」
親達から、琴音はほぼ決定事項のように聞いていたのだ。閑に聞いたのはダメ元のようなものだった。
「どうしても、嫌だっていうなら」
「それで、会社的には大丈夫なの? 閑さんには迷惑はかからない?」
「……そんなに嫌か?」
思わず前屈みになっていた琴音に、閑は苦笑いをして問い返してくる。お相手を目の前にして、少々失礼な態度だったかもしれない。ようやくそう気付いて、琴音は肩をすくめた。
「嫌、っていうか、戸惑う。急すぎるし、嫌も何もまだ考えられなくて……それに、本当だったら……お姉ちゃんの方が」
姉は現在、通訳の仕事で日本を出ていることが多い。仕事をやめるつもりがまったくない可乃子はこの縁談をきっぱり断り、その為に琴音にお鉢が回って来た。両家の両親が琴音に対して強引だったのは、琴音に断られれば後がないからだ。
つまり、自分は二番手で名前が挙がったに過ぎなくて、そのことに後ろめたさと、同時に反抗心も沸いて来る。
それに、閑と可乃子が別れた経緯を知らない。閑が今現在、可乃子をどう思っているのかもわからない。閑にとって、どちらが良かったのか、それがどうしても気になってしまうのだ。
僻んでいるようでみっともなくて、最後までは言わずに口を噤んだ。途切れた言葉を閑はどう思ったか、ただずっと琴音の表情を注意深く窺っている。見透かされそうな気がして、琴音は眉を寄せる。すると、ふっと息を吐き出すような音がして、見れば彼は笑っていた。
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