1.河合神社の鏡絵馬

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1.河合神社の鏡絵馬

 扉を開けると、満天の星空が広がっていた。  わたし――星乃杏奈(ほしのあんな)は、今、京都の繁華街の中心地、四条河原町にほど近い場所にある雑居ビルの中のバーに来ている。店名は『星空Bar』。名前の通り「星空」が売りで、店内は照明が落とされ、天井や壁にプラネタリウムが映し出されている。 「わぁ……!」  思わず小さく歓声を上げると、わたしの隣に立つ男性――一宮颯手(いちみやはやて)が、くすりと笑った。  入り口に立つわたしたちに気がつき、店員が近づいて来ると、落ち着いた声音で、 「いらっしゃいませ。ご予約様ですか?」 と尋ねて来た。 「はい。一宮です」  颯手が答えると、 「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」 店員は微笑んで、わたしたちを先導して席に案内をしてくれる。店内はそれほど広くはなく、4人掛けのテーブル席が5席と、カウンター席が6席あり、女性4人グループと、一組のカップルが座っていた。平日の夜なので、客は少ないようだ。  コートを脱いで荷物をカゴの中に入れ、店員が引いてくれた椅子に腰を下ろす。プラネタリウムの光が足元まで届いていて、わたしのスカートの上にも星が散りばめられている。  振り向いてバーカウンターの中を見ると、颯手ぐらいの年齢程のバーテンダーがいて、何かカクテルを作っていた。その大人な雰囲気に気後れして、わたしは隣に座った颯手の方に顔を寄せ、 「なんだか緊張する……」 と囁いた。 「初めて来たから?」  落ち着かなげなわたしの様子が面白いのか、颯手が口元に笑みを浮かべている。 「うん」 (バーに来るのなんて、生まれて初めてだし)  この店は颯手のお気に入りで、従兄の神谷誉(かみやほまれ)と、よく一緒に飲みに来るらしい。
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