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とあるイベント会社に一人の老人がやってきた。
「ちょっといいかい? 予約も無しに飛び込みで悪いんだがね、明日の夜、2時間ばかりレンタルスペースを借りたいのだが空きはあるだろうか?」
少々お待ち下さいと、受付の男はさっそく予約状況を確認しはじめる。
専用端末をジッと見つめる事十数秒、にこやかに顔を上げるとこう答えた。
「お客様、こちらは初めてでいらっしゃいますね? ご来店、誠にありがとうございます。ただいま確認したところ、明日は22時から24時までの枠に空きがございます。この枠が最後の空きとなりますので、よろしければ仮予約をされてはいかがでしょうか?」
「なに! 最後の一枠か! すぐに仮予約を入れてくれ!」
「ありがとうございます。では、これで……よし、枠は押さえました。本契約は、これからレンタルスペースにご案内しますので、実際にご覧になってからお決めになってはいかがでしょう?」
「うむ、そうさせてもらおうかな。まぁ、どこも似たようなモノだとは思うんだけどね」
「おっしゃる通りでございます。ですが、スペース内の細かな仕様とオプションは、それぞれの会社によって異なります。具体的なご説明は、スペースに着いてから順にさせて頂きます。ささ、こちらへどうぞ」
レンタルスペースを有する建物は、イベント会社の広大な敷地内にあった。
自然豊かな森の中に突如現れた、蔦の絡まる大きなレンガづくり。
窓も無く入口が一つあるだけで、延々と続く外壁が建物の大きさを物語っている。
受付の男は手慣れた様子でドアを開けると、老人を中に入れた。
「こちらでございます」
受付の男は片手を広げスペースの一望を促した。
ふむ……と、老人は、顎髭を撫ぜながら360度、ゆっくりと回りながら果てなく広がる空間を見渡し、
「ん、まぁ、こんなもんだろうねぇ。可もなく不可もなく、何もないスペースだ。だがこうでなくちゃ困る」
と、おおむね満足した様子で頷いている。
「無駄な物、無駄な色、そういった物はすべて排除してございます。照明も床、壁、天井、それぞれ強化特殊パネルの奥に設置。室内から見ると全方向、光が溢れる仕様でございます。明度の調節は音認証を採用。認証音はお客様のお声はもちろん、パチンと指を鳴らす音や、床を踏み鳴らす音といったように、自由度の高い登録が可能でございます」
「へぇ、そうなのかい? いつも使っているレンタルスペースでは明度の調節はできないんだよ。暗くしたり明るくしたり出来るのは面白いね、良い演出になる。いやぁ、いつものレンタル会社が臨時休業で困っていたんだが……ここも中々良さそうだねぇ」
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