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彼の実家に里帰りすることになった。 きっかけは結婚したこと。 実は一度も、彼の家族に会ったことがなかったのだった。 「俺は天涯孤独みたいなもんだから、紹介する家族なんかいない。一人っ子だし、親とは縁を切ってる」 結婚するにあたってそんなことをぶっきらぼうに答えたとき、彼は心底残念そうな顔をしたけれど、それならそれで仕方ないとすぐに納得してくれた。 「いろんな人間がいるんだ。残念といえば残念だが、俺はお前自身を愛しているんだから、お前がそう言うならそれでいい」 無理に聞き出すでもない。仕事柄いろんな人間と出会ってきたんだろうから、そこで培った処世術の一つなのかもしれない。 お前が話したくなったら話してくれ、そして紹介してくれ、と添えて微笑まれると、いつかそんな日が来たらそうさせてもらおうと思えた。 「前に話したことがあるかもしれないが、俺は8人兄弟なんだ。兄と姉がいて、俺は一番の弟だ。ぜひ紹介させてほしい」 そう話したときの彼の笑顔はいつにも増して柔らかくて、家族との関係がすごくいいんだろうなっていうのが一瞬で伝わってきたのを覚えている。 「ああ、楽しみにしてるよ」 つられて笑いながら答えたものの、結婚までにいろんな手続きがあって、なかなか挨拶に行けずに終わってしまっていたわけだ。
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