巡り巡りて……

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 私とあなたには結局子供が出来ませんでしたけど、とても幸せな50年間でした。あなたは私に惹かれていたようですけど、私もあなたに惹かれていたと思います。もしもう一度あなたと照れ有り笑い有りの甘い恋物語を一緒に書ければとても幸せなのでしょうね……  最後の話に進む前に1つだけお知らせしたいことがあります。それは私のこの記憶は年が経つにつれて消滅していくということです。生きていくのにこの記憶は阻害要因として消滅していき、年相応の感受性と今生きる物語の記憶しか残りません。  では、最後の「一度過ぎてしまった時はもう巻き戻す事が出来ない」について話しましょう。結論から言いましょう。巻き戻せません。一度体験した人生をもう一度体験する事は出来ません。たとえ私の記憶が忘却しなかったとしてもそれは無理です。  人生は人生ゲームと違って、出た目通りには再現出来ません。同じ行動をしても小さな事からズレてしまう。出会い方が変わってしまえばその人の印象も変わってしまい違った結果になってしまう。終わってしまった物語はもう体験する事は出来ない。人生というのはゲームとは違って先が読めない化け物なのだから……  春のぽかぽか陽気の中、私は歩き出す。時折視界の中に散り始めた満開の桜が映り込み、あなたがくれた春を思い出す。また来年も思い出せるといいな……
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