1話

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行き交う人々を横目に、俺はオシャレなカフェで尚希とお茶をしていた。 しかも二人きりで。 どういうわけか、尚希に気に入られてしまった俺は、毎度誘拐されるように連れ去られる。校門で待ち伏せしている尚希に、時々こうして連れ去られることが日常と化していた。 もちろん天王寺には内緒である。 「で、これが小学校入学式の尚ちゃん」 語尾にハートマークをぶら下げて、尚希が俺に液晶画面を見せてくる。そう、尚希の目的は俺に天王寺の可愛さを伝えること。 三男の弟を可愛がっているとは聞いていたが、まさかそれを俺に押し付けてくるとは思わなかった……。呼び出されては天王寺の幼い頃の写真を見せられ、エピソードを語られ、可愛いと連呼され、どう? と感想を問われる。軽い拷問だ。 けど、尚希には何となく弱みを握られているような気がして、どうしても強く出れず、毎度適当に相槌を打っている。まあ、俺の知らない天王寺の昔を聞けるのは少し楽しいけど。 にこにこと嬉しそうに尚希は、何枚も写真を見せては、うっとりと昔を語る。てか、写真の量が半端ない。どんだけ過保護なのかとツッコみたくなるレベルだ。 今日はどのへんで解放されるのだろうか、そんなことを考えていた俺は、近づく人影に全く気がつかなかった。
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