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ドラマや小説なんかではよくある話だ。しかし、自分の身近にこんな家庭があったなんて。
鈴音が知らないだけで、こういったことなど普通にあることなのかもしれない。それを思うと、鈴音には両親はいないが、ずっと鈴音を可愛がって大事に育ててくれた正義がいる。祖父ではあるが、まだまだ元気にピンピンしている。なんて自分は恵まれているのだろうと思った。
「それからどうなったんですか?」
志貴が続きを促す。正義が小さく頷き、その後の話を続けた。
「しばらくして、嫁も少しずつ元気を取り戻していった。二、三年は三人で平和に暮らしとったんじゃが、楓ちゃんが幼稚園に上がるか上がらんかくらいの頃に、急に家を出て行ってしまったんじゃ。楓を頼むと書き置きを残して」
「なにそれ!?」
父親は浮気をした挙句に離婚届を置いて家出、その上母親まで書き置き一つを残して家出。それも、先ほどの正義の言葉を辿ると、自分の夢を追って海外へ行ったということになる。
「子どもをなんだと思ってんのよ!」
他人事ながら、途轍もなく腹が立ってきた。
それぞれに大人の事情があったのだろう。しかし、そんなことは知ったこっちゃない。子どもは親を選べないのだ。
鈴音は悔しくなり、グッと唇を噛み締める。そうしていないと、涙が零れそうだった。
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