百にはひとつ足りない

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すごく似合ってる。 そう言って彼は白い歯を見せて微笑んだ。 浴衣の胸元から覗く黒い肌はそれを一層引き立てた。 私の彼は最高に素敵だ。 夏祭りに揃いの浴衣を着てしっかりと繋がれた手。 人波を掻き分けても、私達は世界に二人きりのような気がした。 露店で見つけた可愛らしいかんざしに思わず目を奪われた。 「かわいい、これ!」 私がそう声をあげて、そのかんざしを手に取った。 赤い花があしらわれていて、少し鈍く光るそれは時代を感じさせる。 レトロな感じもお洒落だった。 「買ってあげるよ」 彼が、少し怪しげな露天商に値段を聞くと、下手な関西弁でおおきにとその男はかんざしを手渡して代金を受け取った。 「いいの?」 私が申し訳なさそうな顔をすると、 「うん、欲しかったんだろ?絶対にそれ、鈴(リン)に似合うよ」 そう言いながら、私のお団子頭につけてくれた。 最高の夏だ。彼は野球部でエースで4番。そんな彼をいつも遠くから見つめてため息をついていた私に、何と、彼の方から告白してきたのだ。まさか両思いだったなんて夢にも思わなかった。それから、当然のごとく、私達は付き合いだした。 付き合って初めての夏。この時が永遠に続いて欲しい。そう思った。
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