例えは陳腐だったとしても

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例えは陳腐だったとしても

 天才は実在する。  それが悲しいことなのか嬉しいことなのかは定かではないが、ツチノコやネッシーと違って確実に存在する。  僕の親友がそうなのだから。    小学校からの同級生にして天才オールラウンダー、三明解人(みつあきかいと)。  人が100回やってできることを、彼は3回でできるようになる。  『何をやらせても器用にこなすやつ』の最強版だと思ってもらえば、わかりやすいだろうか。  例えば鉄棒で言えば「はい、じゃあ今から大車輪をやってください」と言うだけで、彼は三回目には風車のようにぐるぐると回ることができるようになるのだ。  しかし天は二物を与えずと言う。  天から才能を与えられた彼は、その代償に温厚篤実な性格を失った。  つまり大分捻くれた性格なのだった。 「この定期試験というシステムは一体人間の何を測っているのだろうか。才能を測りたいというのであれば、全てを一新すべきだろうな。もちろん根拠はある。正しく才能を測れているとすれば、私が一位のはずだからだ」  廊下の掲示板に貼られている、学年100位までが掲載される期末テスト結果ランキング表を見ながら、そんなことを(のたま)うくらいには性根の曲がったやつだ。解人は全教科80点で学年40位だった。  しかしそんなこじらせた天才の考察について、今回に限っては賛成だ。 「ほんとだよな。僕がランク外ってどういうことだよ」 「それはそういうことだよ、一般少年」 「…………」  思ったことをそのまま言うと相手がどう思うのか考えないところも、その天才さを如実に表している。僕じゃなかったら泣いてたぞ。  さて、ここからどのようにして僕の名誉を挽回させてやろうかと目論んでいた矢先。 「よう、天才」  僕たちの背後から声が聞こえた。 「ん? 天才の私を呼ぶ声が聞こえたようだが」 「いやだから自分で言うなって」  先に解人、そして続けて僕が振り返る。 「やっと、ここまできた」  後ろには一人の見覚えのない男子学生が立っていた。  ……いや。  見覚えない、か? 「お前は誰だ?」  解人はその男子学生に言った。 「相変わらず容赦がねえな。だがそれでこそ、だ。逆に安心したぜ」  彼は口角を上げて、長い前髪を横に流す。  その左右で色味が違う瞳を見て。 「あ」  思い出した。  そして、繋がった。  過去の情景と先程まで見ていた景色が。 「――天才、お前を喰いに来た」  そこには、小学校の同級生にして全教科満点学年総合一位、本積筆持(ほづみひつじ)が立っていた。
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