春休み

1/1
前へ
/27ページ
次へ

春休み

 カメラが止まり、明らかに崇範がホッとした顔をする。 「じゃあ、ありがとうございました」 「ありがとうございました!」  言いながら報道陣が撤収し始めるのを見て、美雪は車を降りると、崇範のところに小走りで近寄った。 「深海君!」 「え、東風さん!?」 「どうしても直におめでとうが言いたくて。えへへ。  ケーキ買って来たの」 「ありがとう。  あ。も、もしかして、今の」  ハッとしたように崇範が狼狽える。  美雪は赤くなって俯き、崇範も赤くなって俯く。 「あ、あの、本当はこの前からずっと言おうとしてたんだけど、なぜかいつも邪魔が入って」 「う、うん。そうね。そうだったわよね」 「それで、その、春休みに、どこかに行かない?」 「い、行きたい、です!」 「それから、あの、好きです!」 「わた、わた、わたしも、好きです!」  それでお互いにお互いの返事にほっとし、視線を合わせて微笑むと、急に恥ずかしくなってまたも俯く。  新見と明彦が、溜め息をついた。 「節度ある付き合いにも程があるだろう」 「まあ、何か問題が起こるよりはいいですけどね」  いつの間にか美雪に気付いたカメラが録画を始めており、全てを撮られていたと知った2人は、言葉もなく蹲った……。  学年末テストが終わり、試験休みになる。撮影も始まるが、数日はまだ暇がある。  その間にと、崇範と美雪は加藤、田中、美雪の友人達と6人で遊園地に行く事になった。  崇範のコメントも崇範と美雪の付き合いも好意的に報じられ、ファンサイトもいつしか鎮静化していった。 「進路、どうするの」 「奨学金制度のある大学を受験しようかと思ってる所なんだ」 「へえ。学部は?」 「手に職をつけたいのと、法律に興味があるから、法学部かな。それで弁護士の資格を取りたいな。  東風さんは?」 「私は、獣医さんかなあ」  特設ステージ前で6人でヒーローショーの始まりを待ちながら、そんな話をしていた。 「深海は、ビッグな俳優を目指すんじゃないの?」 「そんなに僕が凄い訳ないよ」 「え、何なの、その変な自信は」 「そうだよな。特撮ヒーローの時は物凄く自信満々なのにな」 「あれは別人だから。  でも、特撮ヒーローの仕事は楽しかったな」 「うん!かっこいいしね!」  他の4人は、もういい加減慣れた。  と、ステージにお姉さんが出て来て、客席に向かって声を張り上げる。 『こんにちはーっ』 「こんにちはーっ」  子供達が笑顔で応える。目がキラキラと輝き、ワクワクが止まらないという顔でステージを見つめている。 「ああ。こういうのがいいんだよ。怪獣をやっつけて皆が笑顔になった時とかね」  崇範は、会場を見て小声で言った。 「うん。深海君は、最高のヒーローだよ!」  美雪が言い、視線が合い、笑顔がこぼれる。 『大変、怪獣が現れたぁ!助けを呼ばなくちゃ!皆は誰に助けを呼ぶ?  さあ、大きい声でヒーローを呼んでね!せえの』 「アスクルー!」 「深海くーん!!」 「東風さーん!!」  大声が青空に舞い上がった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加