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プロローグ
軍幕の中――。
1人の男が椅子に座り、片膝をついた兵士から知らせを受けていた。
兵士は自分で報告していながら、その内容を信じられないといった表情をしていたが、椅子に座っている男は動じずにただ静かに聞いていた。
男の名はレコーディ―·ストリング。
この荒廃した世界で唯一高度な科学力を誇る国ーーストリング帝国の皇帝だ。
現在、ストリング皇帝は軍を引き連れて反帝国組織バイオナンバーと交戦中だった。
戦闘は帝国側が優位。
何故ならば、使っている武器の火力が圧倒的に違うからだ。
弾丸を込めて撃つ旧式の突撃銃では、帝国の使用する電磁波放出装置――インストガンには歯が立たない。
それに反帝国組織は、前の内部紛争でリーダーであるバイオを失っていたのもあった。
それらすべての要点により、戦局は帝国側が圧倒的に優勢だったのだが――。
「では、我らの城を取り返すことは、できなかったということかね?」
兵士の報告を聞いたストリング皇帝は、静かに訊ねた。
それは兵士の伝え方が、非常に回りくどい言い方だったからだ。
慌てて頷き、YESと答える兵士へ、皇帝は質問を続けた。
被害状況、将兵たちの行方、民の安否――。
訊かれた兵士は、申し訳なさそうに答えた。
ストリング城内にいるジャズ·スクワイアという少女兵の話によればと。
「城下町は半壊、リンベース近衛兵長は戦死、ノピア将軍とローズ将軍は行方不明。それとバッカス将軍を含めた1万の軍勢が破れたということか」
ストリング皇帝は、この凄まじい敗退を聞いても普段と変わらない落ち着きを見せている。
片膝をついた兵士は、そんな皇帝が恐ろしくてしょうがなかった。
それは周囲に立っている兵士も同じだ。
兵士たちが震えている理由は、皇帝が何を考えているかわからないからだった。
罰を受ける――いや、たとえ八つ当たりでも王がすることならばそれも受けよう。
戦えというならすぐにでもこの命を捧げよう。
だが王は兵に対して、けして激励することも叱咤することもないのだ。
いつも、どんなときも――。
戦で勝とうが負けようが、ストリング皇帝の感情に揺らぎはない。
それは、まるで機械のようだと――。
兵士たちは、そんな皇帝に恐怖しているのだった。
何を考えているからわからないということが何よりも恐ろしい。
そのとき――。
軍幕の中にもう1人兵士が入ってきた。
その兵士は、先に入ってきた兵士と同じように片膝をついて、ストリング皇帝に拝謁した。
「何かあったのかね? あまり回りくどい言い方はせずに、要点だけ述べてくれると助かるが」
ストリング皇帝の問いに、兵士は大声で返事をすると、言われた通り要点だけを伝えた。
「なに? ストリング城が空に浮かび上がっていっただと?」
皇帝の態度は、変わらずに落ち着いたものではあったが、今までとは明らかに反応が違っていた。
「それもアン·テネシーグレッチの仕業かね?」
訊ねられた兵士は、城内から逃げ出した兵士による通信でしか状況がわからず、はっきりとしことはわからないと答えた。
それを聞いたストリング皇帝は、椅子から立ち上がると軍幕を出ていく。
周りにいた兵士たちが、何事かと皇帝の後を追った。
「各部隊の隊長たちへ伝えよ。私はこれから数体の機械兵を連れて本国へと戻る。ここは任せるとな」
皇帝の言葉を聞いた兵士たちは、返事と同時に敬礼。
すぐにストリング帝国の航空機――トレモロビクズビーの発進準備に取り掛かった。
「何が起きてもすぐに鎮圧すればよい。制御できないことなど、この世にはないのだ」
それからストリング皇帝は、トレモロビクズビーに乗り込み、自分の城へと向かっていった。
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