葬式で見た君とお前

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
 改めて会場に戻ると誰もいなかった。おそらく俺がいない間にお別れの言葉を終えてから、通夜ぶるまいが行われているに違いない。和樹も語梨ちゃんも無宗教だからこうなったのだろう。  俺は誰もいない和樹の写真の近くまで歩みよる。和樹の写真の下には置かれた無数の白い献花があった。 「お前もう少しマシな写真あったんじゃない?どうして社会人になってからのじみーなヘアスタイルの写真なんだろうな。俺達が最高に輝いていた高校時代の荒くれ狼みたいなヘアスタイルの方が似合ってると思うんだけどな……」  和樹の写真の前で言葉を紡ぐ。なかなか言わなければならない言葉が出ない。 「やっぱり、大人になると時の流れが早く感じるよな。高校卒業してからより、俺達の中高生の時の方が長かったような気がするんだよ。もしかしたら、高校過ぎてからが人生の折り返し時点で、そこからあっという間に時が経って死んでいくのかもしれないな」  なぜ出ないんだ!?俺はここに和樹への別れを告げる為に来たんじゃないのか? 「やっぱり俺も馬鹿だな……ここに別れの言葉を言いに来たのに、出てくるのはくだらない戯言ばかり……なんで俺はいつも大事な時に言葉が出ないんだろうな……和樹」  俺は和樹の写真の前でただ俯くことしか出来なかった。  俺はいつもそうだ。いざという時に言葉が出ない。だから、遅れをとる。初恋もそれで想いを伝える事が出来ずに終わったし、これも別れを告げる事が出来ずに思い出のお前に引っ張られて生きていくことになるのかもしれない。だけど……  悪い和樹、もう少しだけお前の思い出に引かれていいか?きっと近いうちに踏ん切りをつけて墓参りに来るからよ……その時は俺の別れの言葉聞いてくれるか?
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!