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「私がまた美琴たちに笑えるようになったのは、夏生くんがいたからなの。夏生くんが、願いを叶えてくれたから」
自分が泣いていたから、視界の滲みで気づかなかった。
夏生くんも、いつの間にか涙ぐんでいたことを。
「だから、今度は私が願いを叶える。夏生くんの願いは何?」
私の未来ばかりを案ずる願いなんかじゃなくて。
夏生くんがいなくなる前提での話なんかじゃなくて。
今、ここにいる夏生くん自身の願いが聞きたい。
祈るように手を握ると、戸惑うように弱々しく握り返す力を感じた。
「俺は……」
外の風の音にすらかき消されてしまいそうなほどに、小さな声。
涙交じりで、いつもの彼の声じゃない。
だけど、いつも笑顔でいる君の、本当の心の声だと思えた。
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