佳人の肖像

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 ポートレイトは二枚あった。  アツヒロは二枚の写真を見比べて首を傾げた。あとから出て来た一枚も同じ美女がモデルだったが、雰囲気がまるで違う。鋭さと艶やかさの代わりに、磊落で快活な印象だけが残る。  アツヒロにはフィルム撮影のことはまったく解らないが、後者の方が明らかに撮影技術が上のように見える。撮影場所は同じような室内だが、ホワイトバランスとか… 少なくともピントはカンペキに合っている。なのに、  明らかに、最初の一枚の彼女の方が魅力的だった。  不思議な… ものである。微笑んでいるわけでも、愉しそうな顔をしているわけでもないのに。存在感がまるで違う。彼女に何があったのか…  いや、  彼女が見ているものはなんだ?  そして、カメラマンが見ているものはなんだ?  数十年の時を経た謎かけは永遠に解かれることはない。しかし印画紙に濃密に凝った気配に、アツヒロはそっと細く息を吐く。写真を触る指先がぴりりと痺れるような気がしたし、彼女の面影が瞼の裏に翻り、ひるがえり…  そこで、アツヒロは不意に思いついた。  何か、同じものを… ほぼ同じ条件で、継続して撮影してみようか、と。たとえば学校から見える富士山。あれを毎日、同じ時間に撮ってみるとか。  たった24時間  されど24時間  その間に、自分と被写体がどの様に変わるのか。あるいは変わらないのか。見てみるのもいいかもしれない。  そうして彼は、件の紙箱をそっと閉じた。  ただ、ひとつだけ、アツヒロは祈った。  ポートレイトの彼女が、問うた相手にちゃんと、  応えてもらえていれば良いのだけれど、  と。
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