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1.pandora's box
その日は熱帯夜だった。
ハイライトで照らされたヘッドライトに集まる羽根虫たち。普段は機械音しか聞くことのない彼らにとって虫の声は逆に癇に障るもので暑さも重なって余計に苛立ちが募る。
全身から噴き出る汗を拭うことも忘れてひたすら土を掘り続けるその姿は異様な光景だった。
慣れない土木作業に手の平は痛かったが休むことは出来ない。何故なら彼らは一刻も早く事を済ませこの場から立ち去らなければならないからだ。
「このくらいで、いいかな?」
一人が手を止めて尋ねた。正直、彼には限界だった。土に触れるなどせいぜい小学生時代のあさがおを植えた時以来だったし過度な疲れと緊張から早く解放されたいと言う気持ちの方が勝っていた。
そして他の男たちも同感だった。
「そうだな。早くやっちまおう。人が来たらヤバイ」
持っていたシャベルを放り出すとズルズルと毛布に巻かれた何かを引きずって来た。
「くっそ、重たいんだよ!」
悪態を付きながら穴の中へと蹴り入れられる塊は動くことはなかった。
夏の日の出は早い。彼らに猶予はあまりなかった。
「早く埋めろ!急げよ!」
山となった土を再び穴へと戻していく。
彼らが隠そうとしたものは数日後、老人が散歩に連れて行った犬が容易く掘り当ててしまったのだった。
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