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ある日、将太はかごを持って山へ登った。山はどこもかしこも雪で埋もれていたけれど、この時期だけに実のなる木もある。
真っ赤なナンテン、黄色いセンダン。薬にする実をとりに山へのぼった。
山の中は白と青色、白と灰色、白と茶色。冷たく固い、だれも歩かない雪の上を将太はぶっかりぶっかり歩いていった。
その将太の頭にばさりと雪が落ちてきた。
「つめて!」
将太は頭の上から雪を払った。そしてまた一歩二歩………
ばさり。
また雪が落ちてくる。いんや、これは誰かが雪玉を投げたんだ。
「だれだ!」
将太は怒って振り向いた。
すると、
―――くすくすくす。
木の上からかわいらしい声が聞こえた。
そこには真っ黒な長い髪と、長い布を身体に巻きつけた女の子がいた。
(カラス姫だ!)
将太にはすぐにわかった。カラス姫はばあさまの話のとおり、とてもかわいい人の女の子に化けていた。
「おまえ、どこへいく」
カラス姫はそう尋ねた。将太は雪の上にしりもちをついて、
「な、ナンテンの実をとりにいくんだ!」と、大声で答えた。
「そっちの方にはナンテンはねえぞ」
「お、おまえはカラス姫だな。おらの目ン玉をとりにきたんか。命をとりにきたんか!」
カラス姫はちょっと首をかしげると、急にケラケラと笑い出した。
「そうだそうだ、おらはカラス姫だ。お前の目ン玉とっちまうぞ、お前の命をとってしまうぞ」
将太はもう恐ろしくて逃げるどころではなかった。
「目ン玉とられたらもうかあちゃんが見えなくなる。とらんでくれ」
そう必死に頼むとカラス姫はぽーんと木の枝から降りてきた。長い布が背中にばさっと広がって、まるで黒い翼のようだった。
「お前、名前なんていうんだ」
カラス姫は将太の周りをぐるりと回った。
「将太、だ」
「ふうん」
カラス姫は将太の顔をじろじろ見た。
「いいとも、将太。お前がおらの言うことを聞いてくれれば目ン玉も命もとらないでやるぞ」
すぐそばにきたカラス姫は将太より少しだけ背が低かった。将太と同じわらぐつをはいて、長い布の下には赤い着物をきていた。
「言うことってなんだ」
「お前、おらとともだちになれ」
将太はびっくりした。村の子がカラス姫とともだちになる?
「ともだちになったらナンテンのなってるとこ教えてやる。センダンのなってるとこ、教えてやる」
カラス姫はじっと将太を見上げて言った。
カラス姫はとても上手に人の子に化けていた。ほんとにふつうの村の子と同じだった。
真っ黒な目、ナンテンみたいに真っ赤な唇、まぁるいほっぺ。ううん、村のどの女の子よりかわいかった。
「……おら、ともだちになる」
将太はカラス姫の真っ黒でまん丸な目を見ているうちにそう言ってしまった。
そうするとカラス姫はびっくりした顔をして、それからちょっともじもじとわらぐつで雪をけった。
「ほんとか? ほんとにおらとともだちになってくれるのか」
「ほんとだ。だから目ン玉とらんでくれ」
カラス姫は将太の手をぎゅっとつかんだ。
「こい将太、こっちにナンテンがなっとる」
カラス姫が教えてくれた場所にはほんとにたくさんのナンテンがなっていた。それからセンダンも教えてくれて、うさぎの巣穴も教えてくれた。
「おら、お山のことならなんでも知っとる」
カラス姫は得意そうに言った。
「あっちのほうですべりっこしよう」
カラス姫は大きなやつでの葉をもってきた。将太とカラス姫はそれに乗って雪の上を何度も滑った。
「明日もお山で遊んでくれるか?」
お日様が沈んで将太が里に帰ると言った時、カラス姫はいっしょうけんめいに言った。
将太は「遊ぶ」と答えた。カラス姫はにっこり笑った。
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