三十五話 ある意味家族会議

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三十五話 ある意味家族会議

月に一度、なんて決まった日付は無く 思い付いたように女王蜂用の食卓を使って、 御茶会と言う名の集まりを開く やって来る者は、俺の子供達とその雄だけ つまりサタンも来るのだが、今は一匹の雄として座っている 俺の左右には、ルビーとパール、パールは小さいからテーブルの上に座ってるだけだが、それでも椅子を一つ使っている つまり、全員に席が其々ある…卵を除いてな 『 なぁ、俺のこの城を出ようと思っている 』 「「 !? 」」 紅茶もどきとクッキーもどきの肉団子 其でもゆっくりと食べたり飲んだりしては、 此処では父親とその友のような会話しか認められない 立場など関係無いから、女王蜂の食卓に彼等も座れる 優雅な雰囲気をぶち壊すように、一言告げれば其々会話をしてたはずの視線は此方へと向けられた ネイビーとサタンの視線が痛い 「 へぇ、それは随分と急ですね。どうしてですか? 」 俺の言葉に動じない奴が一人いた ハクは一番紅茶が似合うほどに、ゆっくりとティーカップに口をつけ一口飲みながら質問を返してくれば、ケーキ(肉団子)にフォークを刺しながら答える 『 だって、此所は元クロエの城(巣)だろ?なんか、嫌だなって 』 賃貸に住むのには慣れてるが、此所にはクロエの名残が多い 顔も見た、殺されるのも見た、そして幾度となく比べられる事にそろそろストレスがピークになっていた 『 俺は、俺の家を持ちたいなって 』 「 城を一から建てるのですか?可能ですが、今の働き蜂はルビーのみ、到底直ぐには建てれないと思いますが…… 」 『 ……俺の家だから、俺の働き蜂が造ることになるのか……確かに、無理か…… 』 「 直ぐには無理だけど、ボク頑張るよ! 」 「 ヒヨヒヨ!! 」 パールも手伝うとばかりに顔を上げて、口元にクッキーのカスを付けて精一杯返事をするのは分かるが、このパッと見た人数で造るとなると、無理がある 「 気持ちは分からなくも無いけど、建設の知恵も無いし……いっそのこと、人間界に行って民家を奪った方がよくない? 」 「 此れから産まれてくる子に、人間ごときの豚小屋が使えるとは思えないがな 」 『 豚小屋やって…… 』 アランの言葉に、冷たくいい放ったネイビーに心は折れそうになった この城に比べたら、そりゃ人間の家なんて豚小屋みたいなものかも知れんが、今の豚の生産場所なんて結構広いんだからな いや、そうでもないか……一ヶ所に数頭入ってるし…… ネイビー……恐ろしいぜ 「 私は女王蜂の意見に賛成というか、好きにすればいいと思う。元々女王蜂は自ら暮らす場所を選び、巣を造るらしいからなぁ 」 「 永年、サタンの元に居れば安全だからと女王蜂を此所に止めていましたが……本来を考えればそうですね…… 」 ブラオンの言葉にハクは納得したように頷くが、じっと聞いてるだけのサタンはなにも言わない 「 ならばこの俺の城はどうだ!?此処のように薄暗くも無ければ…… 」 「『 却下 』」 ロッサの言葉に俺を含めた、サタン以外の全員が即拒否をした サタン城から離れるとしても行きたくないぜ…… 「 なっ!? 」 「 聞いてた?ルイは、自分の家を持ちたいんだよ。どっかのアラビア風のキラッキラッの城なんて眩しすぎてストレスで吐くよ 」 アランの冷たく突き刺さるような言葉に、ロッサは言葉を失いテーブルに額を付け撃沈した 御前、元部下なのにいいのか、っていう言葉は飲み込んだ 「 ……御前が自分の身が守れる保証があるなら、この城から離れるといい。だが、俺達…雄はついていけれないのが掟だ 」 ネイビーの言葉に俺は彼等へと視線を向けた 雄は、孕むためにやって来るだけ、此所に止まってるロッサやブラオンだって、産めば自分が住んでる場所に帰る予定だ ハクやネイビーはこの城に住む雄だからいるだけであって、本来はサタンの下僕に過ぎない 俺の元に来るのは子供達と、行く宛がないアランだけだ 『 身を守るね……俺はそんな…偉い人では無いんだけどな 』 「 レーヌアベイユを得るために、多くの敵が奪いに来るでしょう。サタン城に居るから周りの魔物は手を出せませんが…其でも…… 」 「 御前の知らないところで、敵は来ている。魔物を産み出すレーヌアベイユを殺す為に派遣された人間とかがな…… 」 俺の知らないところで、その言葉に返す言葉が見付からなかった 彼等は“ レーヌアベイユ “という存在を守るために戦う働き蜂であり、雄なんだと実感する ルビーが沢山の世話をしてくれるように、生まれた瞬間から遺伝子に刻まれた本能ってやつか 『 じゃ、俺が………… 』 死んだら、っていう言葉は彼等の視線によって言うのを止めた 死んだら、魔物を生み出す者が居なくなる 女王蜂だって生まれてない、俺が死ぬのは次の女王蜂に全てを任せてからになる それまでは、彼等は全力で守り抜くだろ この城に居る限り…… 『 はぁー、やめだやめ。城を建てるなんて考えられないし……只ちょっと別の家が欲しいかなーって思っただけ。今の部屋だって元女王蜂のだろ?それが嫌でさー 』 誤魔化ように言葉を繋げ、気を誤魔化すようにケーキを口に含めば、ずっと黙っていたサタンは静かにティーカップを置いた その僅に動いただけで、彼等の視線は向けられる 「 そう。ルイは元女王蜂の部屋が嫌なんだね?なら…全てを模様替えぐらいは出来るよ 」 『 えっ、ほんと? 』 「 うん、但し…此処から離れないっていう条件付きで良ければ、模様替えをしてあげる 」 サタンも結局は俺を此処から離したくないのか サタン城の後ろにある、女王蜂の城、もしその城を全て模様替え出来るなら、例えサタンの傍だろうがいい 『 分かった。全て新品に模様替え出来るなら此所に居よう。ゴシック系のセンス以外なら!それと、アランにちゃんとした医療スペースを……後は…… 』 「 その“契約“……心得た 」 『 契約? 』 あれ、何か不味いことでも簡単に承諾しただろうかと辺りを見れば ハクとネイビーは視線を下げて、アランは驚いた様子の後に悲しげな顔を向けた 俺は何かいけないことでも頷いただろうか? 「 お忘れですか……私達は“ 悪魔 “とも呼ばれてますよ 」 『 あ…… 』 ハクの言葉に思い出した 魔物、働き蜂、とばかり言ってたからすっかり忘れてたけど 魔界の奴等って、魂の契約して、それと引き換えに願いを叶える系の奴だったな うわっ、模様替えの為に魂をサタンに売り払った事を自覚すれば彼は満足気に悪笑みを浮かべた 「 サタンの名の元に、君の願いを叶えよう。望む城を与える代償は、死ぬまでこの地に止まる契約だよ。さぁ、想像して……どんな城がいいのか 」 やっぱり、上手く丸め込まれたなって分かったときには諦めて想像するようにテーブルに肘をつき両手を握り締め、額へと当て想像する 布団がふかふかで、御風呂が広くて、全員に部屋があって、医療スペースが整って、白に統一された美しい城や内装を…… どっかの英国の城を思い浮かべたが、各部屋はゴシックなんかじゃない もっと一般家庭向けの部屋を想像すれば、サタンは魔方陣を現した 「 さて、模様替えの始まりだよ 」 テーブルの下に現れた大きな魔方陣は、女王蜂の城を包み込むように広がり、そして辺りは激しい光に照らされ、其々に目を閉じた 「 さて!模様替え終わり。君は一定の距離から離れられなくなったけど、その代わりいい家じゃない? 」 『 っ……急にピカッとするの止め……えっ 』 眩しかった光が無くなり、ゆっくりと目を開け 辺りへと視線を向ければガラッと変わった事に驚いた 「 ……随分と明るくなったな 」 「 わー!じめっとして、暗い城じゃない!! 」 ステンドグラスから差し込む光は、食卓を照らし センスのない骸骨やら、生首が並んだような置物も変わり、絢爛豪華なものが置かれている 地面も全てカーペットだったのが、宝石が埋め込まれたようなキラキラとした大理石の床へと変わり 白が貴重とした内装は、まるでお伽の国に出てくる城のよう 『 これは凄い……はっ、ベッドとか見に行かないと! 』 「 道も全て変わってるから、迷子にならないようにね 」 『 ありがと、サタン!これは嬉しい! 』 暗い部屋の中にいたら、気分まで暗くなるように 明るい城ならば気分まで明るくなる そんな感覚がして立ち上がれば彼等も仕方無く立つ 「 はぁ、道を覚えるか 」 「 そうですね、見て回りましょう 」 「 うわー!キラキラだね!母さん、いこいこ! 」 『 おう! 』 ルビー、パールを連れて城を探索しに行くことにした アランにはルアナを任せて、卵を三つ抱っこしてたブラオンもまた背中へと担ぎ直し其々に城を探索する 御茶会なんて後回しになり、城を歩き回る 「 母さん!此所は……誰かの部屋~! 」 「 ヒヨヒヨ~( こっちも! )」 『 おっ、此所はトイレか……なんだこの高級感と清潔感に溢れるトイレは…… 』 もしかしたら、きたねぇトイレからおさらば出来たことが一番感動したかも知れないってぐらいに ピカピカで、清潔感溢れる洋式トイレが一番よかった ……トイレするとき大変そうだが、洋式だったらいいんだよ! 『 やっとお風呂見つけた……うわっ、前回よりすげ…… 』 「 ひろーい!それに綺麗だね!! 」 前回もかなり広かったが、今回はその倍ぐらい これなら皆で入れるんじゃないかと思えば、一つの事を考え後で伝えることにした さて、城を探索して二時間が経過した後に やっと全員が食卓へと戻ってきた 「 ダメだ……半分も覚えれねぇ…… 」 「 前回の感覚で歩くと迷子になりました……まだ、自分の部屋を見つけてません 」 「 俺は診療室を見つけるのに一時間半使ったけど、自分の部屋から行けると思えない…… 」 「 ……全部、同じ部屋に見えたんだが 」 『 寧ろ前回の方が分かり辛かったからな!! 』 撃沈してる彼等に、俺は全力で否定した サタンに至っては作った本人だから、軽く笑いながら此所に居るけど、二千年近く住み慣れた城が変わればハクやネイビーは方向感覚を失うのだろうな まるで巣を失った蜂が辺りをうろうろしてるように見えた 「 ボクは覚えたよ!迷わない! 」 「 ヒヨヒヨ~! 」 「 御前達は、ルイの子供だからだ……雄には備わってない…… 」 ネイビーの言葉に彼等の様子が変な事に理解した 子供は、母親の元に戻るために道がどんなに変わろうとも一直線で戻ってこれて 住むために必要な巣も直ぐに覚えることは本能的に分かる事が出来る だが、ハクやネイビーが記憶してるのはクロエの城だ 彼女(母親)の城ならば迷うことも無いだろうが、俺の城だから分からないのか…… 『 まぁ、部屋は後々覚えるとして……。一つ、新しいルールを作りたいのだがいいか? 』 ルール、にしないと彼等がこなすか分からないからな…… そして、俺の意思を乗せた言葉は、此所に住む魔物達には届くらしいから敢えて告げる 其々が別にいい、みたいな反応を見せた為に笑みを向ける 『 最低三日に一度は御風呂に入ること。そして、出来れば一日一回の入浴を決める。これはレーヌアベイユからの“命令“だ 』 ルールであり、命令 ルールは守るべき為にあるのだが、それを守るまでに時間がかかるだろ だからこそ、敢えて命令と付け足せば今日から行ってくれるに違いない ふふんっと自慢気に笑えば、アラン以外の彼等は眉を寄せた なんで嫌そうなんだ!!不潔だろ!! 「 レーヌアベイユの命令なら、三日に一度は風呂にはいるさ…… 」 「 えぇ、三日に一度ならいいでしょう…… 」 『 待てよ。三日に一度は最低限の基準だから毎日入れよ。毎日な 』 どんだけ嫌なんだよ!かなり風呂に入らないのは知ってたけど、やっぱり日本育ちの俺としては、風呂に入らない日があることさえ驚きだ シャワーだけでも毎日入ってくれと望めば、仕方無いように彼等は頷いた 「 女王蜂の命令なら…… 」 「 えぇ、命令には従います…… 」 羽を乾かすのが怠い、みたいな雰囲気だし ネイビーは猫科っぽいから水が嫌なんだろうな、納得はするけど認めないからな! 「 俺は嬉しいけどなー、前は風呂はいるのに許可が必要だったけど、今はいらないんでしょ?最高じゃん 」 『 だよな!やっぱり嬉しいよな! 』 「 うんうん 」 流石、アラン!よくわかってる~! 「 ボクも水浴び好き!パール、沢山入ろうね! 」 「 ヒヨヒヨ! 」 バタバタと羽を動かすのはいいが、ルビーはデカイから動かばテーブルが揺れて地震みたいになる でも、喜んでくれてるのに止める訳にもいかず紅茶で濡れたテーブルクロスから視線を外してから、次の話になる 『 そう言えば、パールが小さいのは何故だ?ルアナは歩けるようになってるのに 』 「 ヒヨ? 」 ルアナの人の子の姿はあれ以来見てないが、別にいい 人の姿になれると分かったなら、それだけで将来が楽しみで仕方無い だが、パールはそこそこ日付が経ってるのにまだ手の平サイズだ これでいいのだろうか?と問えば、ハクは平然と答えた 「 魔王クラスの雄は成長が遅いですよ。働き蜂とは違います。後百年もすれば立派な雄でしょうね 」 『 うん、俺がせっかちだったんだな……気長に待つよ 』 百年……サラッと言うけど、スゲー先だぜ 人間なら人生を二回ぐらいやり直せるぐらい日付が経過するのに 流石魔物、常識とは掛け離れてると実感した 身体の大きさともあれ、ルアナも歩けるけど此処からの成長が遅いんだろうな…… 『 まぁ、うん。昨日の家族会議はここまでだな。また気が向いたら御茶会を開くから宜しくな 』 其々に頷いてから立ち上がり各自仕事へと戻ったら 食卓に残ったのは、俺とサタンだけ…… 『 ……これ、外せないよな? 』 「 うん、もちろん 」 彼等には見えてないが、俺はずっと模様替えが行われた後から手足や羽についている鎖が気になって仕方なかった 重さも違和感は無いが、只その鎖の先が床やら壁に刺さるように埋まってること 動く度に柱やら物にはすり抜けるから、俺にしか分からないのだろうな 『 ははっ……まるでこの城に囚われてる感覚だ 』 「 実際にそうだからね。君を止める為なら俺はどんな手段も使うよ 」 住みやすく、理想がそのまま現実になったような城と環境 その代償は余りにも大きなものだった このサタンは、他の奴より質が悪いと思う 『 こんなことをしなくても。出る気はなかった 』 「 どうかな。駆け落ちなんてされちゃ困るからね 」 ふふんっと笑ったサタンは姿を消して、何処かに移動をした 俺は“駆け落ち“と言う言葉を聞いて、アランの事が筒抜けだったことを実感した サタンには、敵わないな……
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