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42章
すぐに無重力状態ではなくなり、アンはロミーを抱いたまま飛行船の床に叩きつけられた。
下から突き上げるように吹く風が、ホワイトファルコン号を押し上げている。
その風に乗り、飛行船はゆったりと空中を下降していく。
船内で驚いていたアン。
その全身に、どこか懐かしい感覚を味わっていた。
「これはまさか……?」
それは、風を操る反帝国組織の兵士――シックスだ。
奇跡が起こったのか、シックスを感じていたアンの乗ったホワイトファルコン号を、風が運び始める。
次に、突如として、大地の揺れる音が聞こえ始める。
そして、うごめく大地が山を作り、そこから水が溢れ始めた。
「大地と水……もしかしてお前たちなのか……?」
アンはまた懐かしい感覚を覚えた。
この感覚は、帝国の女将軍だったキャス·デュ―バーグと、ガーベラドームの近くで住む鍛冶屋の少年クロム·グラッドスト―ンのものだった。
山のような大地が飛行船を抱き、その上を流れる水がすくう。
このまま地面に激突するかと思われたホワイトファルコン号は、坂道を下るように、地上へと向かって行く。
大地の土台を使い、まるでジェットコースターのように水の上を滑っていった。
アンは自然と笑みを浮かべていた。
自分はなんてバカなのだと。
ロンヘアの声が聞こえた時点で何故気がつかなかったのだと。
「みんな……私の傍にいるんだ……」
そのことを思い出したアンは、顔を今まで以上にグシャグシャにし、泣きながら笑った。
大声で、そして大喜びして――。
彼女はもう、昔は無表情だったとは思えないほど、豊かな感情をその表情に見せていた。
そして、ホワイトファルコン号は地上へと滑りながら着陸。
それと同時に飛行船の周りを、赤と緑の炎が鮮やかに舞い上がった。
その花火のような炎の動きは、まるでアンたちの無事を祝福しているようだ。
「マナ、ラスグリーン……」
炎を操るダルオレンジ兄妹。
アンは、2人のこともしっかりと感じていた。
アンは、気を失っているロミーを支えながら、飛行船の外へと出る。
すると、白い光がアンとロミーを包み込んだ。
「ああ……ルーザー……ルーザーなんだな……」
アンがそう言うと、白い光は穏やかに輝き、そして、やがて消えていった。
「アン~!! 無事だったのね!!!」
声がする方向を見ると、1台のジープがこちらへと向かって来ていた。
銀髪の反帝国組織の女兵士――エヌエーが大きく手を振って、ジープからその身を乗り出している。
運転席には、彼女と同じく反帝国組織の兵士2人――。
メディスンがハンドルを握っており、ブラッドは涙を流しながら咆哮をあげていた。
「バイオナンバーのみんなも生きてたんだな……よかった……本当によかった……」
アンはそう呟くと、その場に倒れてしまった。
「アンッ!?」
それを見たエヌエーたちは、急いで彼女たちに駆け寄っていく。
心配そうに近寄った3人がそこで見たのは――。
安心しきった顔をしたアンと、不機嫌そうに眠っているロミーが重なって倒れている画だった。
アンは頭上から聞こえる男女の笑い声を聞きながら――。
薄れていく意識の中で思う。
……みんな……最後までありがとう……。
了
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