1 空回りする恋心

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1 空回りする恋心

「月がどうかしたのですか?」 斜めに傾く三日月。それをジッと見ていた私に、ルカが声をかけてきた。 「チェシャ猫みたいに笑ってる。私のことをみてる」 「……笑って――?」 「そう。何にも言わないで、ずっと笑って私を……。朝まで」 眠る前のジャスミンティーは。 安定剤代わりですよ、と言って、執事のルカがいつも淹れるもの。 優雅にお茶を煎れるルカの所作を窓際から眺めながら、私がそんなことを抑揚無く言うと、彼はクスッと笑みを零す。 綺麗な唇が、今日の月より細い曲線を描いたのは、私の言葉を気に入ったということだろう。 「月が見ているのは世界です。なにもお嬢様だけを見ている訳じゃないですよ」 さあ、ベッドにお戻りを。 ルカが、まるで小さい子供をあやすような口調で、私を促した。 幼い頃から私の世話係をしてるルカは、未だにこんな感じの甘ったるさを出してくる。時々、彼の中で私の成長が止まってるんじゃないかと、疑いたくなるくらい。 でも、それはいつも一瞬だけ。 ルカが見せるこの単純な愛情は、現れるとすぐ消えてしまう。 べつに無くなるという意味じゃない。奥に隠される。そういうこと。  
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