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「そうか。でも、なんとなくわかっていたよ」
やっぱり、彼は気づいていたのだ。
「そ、そっか……。でも、どう見ても花蜜食っぽいもんね……」
容姿しかり、花蜜食が持ち合わせる圧倒的なオーラは、一般人とはかけ離れている。
どこまで話すべきかわからず、微妙な間を作っていると、功哉のほうから口を開いてくれた。
「教えてくれて、ありがとう」
「べつに、お礼なんて……」
後ろめたさから、その話題を避けていたのは自分のほうだ。
「いや。正直、気になっていたんだ」
「え……」
予想外の言葉に、思わずポカンと口を開けて功哉を見つめた。
「あの日からずっと、君の気持ちを知りたかった。番に選んでもらえたんだから、欲張ってはいけないと思いつつも、心のどこかで君の気持ちを自分に向けたいと思っていたんだ」
ぼくの気持ち……。
「はっ、そ、そんなの……!」
決まっている。もう随分も前から、自分の気持ちは功哉だけに向いている。けれど、それをきちんと口にしたことはない。
「あっ、と……。ちゃんと、言ってなくて、ごめん……」
「何を、だ?」
「えっ、と……」
穏やかだが真剣に向けられている瞳は、その先の言葉を期待しているかのように見える。
言葉にすることが、恥ずかしい。けれど、甘酸っぱいようなこの気持ちを知れたことは、素直に嬉しい。それに、まるで心が清められていくような感覚がする。
「功哉が、好き……」
そう言葉にした瞬間、汚れていた心が綺麗さっぱり一掃されたような気がした。
「本当、か……?」
「うん……」
彼の好きな「清い蜜花」。どう足掻いても、自分にはなれないと思っていた。
けれど、彼はこんな自分を好きになってくれた。たとえ、清くはなれないとしても、べつにいいじゃないか。彼を好きだというこの純粋な気持ちは、なんの混じり気もない。それは事実なのだから。
癒しを与えて、そっと寄り添う月になりたい。彼だけの、月に。
「嬉しいよ。ありがとう。おれも、君のことが大好きだ。月依、愛しているよ…――」
「愛している」……。言葉にするには簡単だが、ちゃんと伝わってくる。それは、たしかな愛情を向けてくれていることを普段から実感しているからだ。
番は、運命共同体。自らを犠牲にしてでも愛しいと思える存在。
ただ、ことさら燃えるような恋をしたわけではない。言葉にして伝えることも必要なのだろうけれど。ぼくが言葉にすると、重みがなくなってしまわないだろうか。
いや、きっと、彼にも伝わるはずだ。だって、いつも隠しきれないほどの想いを彼に向けているのだから。
あとは、彼に確信を持たせてあげればいいだけ。
「うん、こっちこそ……。好きになってくれて、ありがとう……。それと、……愛してる…―――」
〈了〉
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