9話/鉄籠の鬼

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11.  ムシロしかない暗い檻の中ーー。  夜光は死んだように横になって動かない。  一回の失敗と急に消えてしまった自分の居場所について後悔し続けた。  渓谷の戦いに出る前夜、カムナが言った言葉を思い出す。  『自分が置かれた組織の人間関係が一生変わらないなんて事はない。今は平和そうに見えても……人間だって山程喧嘩するからな。  お前、ここに居続ける事ができんのか?』  夜光は答える。  『居れるように頑張って戦うだけだ。』  『人間社会は戦いだけじゃ残れん。人間は複数で共存する生き物だ。互いの寝首をかかれないように面倒臭い事をやって信頼ってのを築かないといけねえ。  ……悪いが、人間としても半人前のお前にそれが出来るとは思えん。』  食料は一日一食で、餌で引き寄せたネズミと椀一杯の水。足りなければ出撃した際に現地調達をしろと言われた。  しかし、その僅かな食料でさえ喉を通らない。  また、牢屋からの外出は1日1回。  武石の技術者によって身体検査や尋問をされる時のみ。しかも拘束用の薬のせいで大して動けない。   そして、質問への答え方が明確でなかったり、余計な情報が入っていた場合は竹の棒で叩かれた。  本当に暴れてやろうかと思った瞬間もあったが、罪を重ねるだけだと踏みとどまる。  牢屋での拘留と尋問を繰り返し、早くも5日過ぎた頃。  いつもの食事が配られる時間。  毎度のように武石の番兵が皮肉を言って食事を置いていく。と、思いきや鍵が開く。  夜光の閉じ気味の目が、久々に大きく開く。  膳を持った百之助が立っていた。  「もも、のす、け……?」  「食事の時間と引き換えに、やっと面会の許可を得た。  遅くなってすまない。」  だが、夜光は怠そうな表情のままだ。親しい人間と会えたのは嬉しいが、孤独に心が蝕われ、どういう顔をしたらいいか分からなくなっていた。  百之助は夜光の目の前に座り、膳を差し出す。  献立は大きめの握り飯2個と味噌汁、焼き鰯一匹。  「台所にこっそり頼んで君が好きなものをかき集めて来た。  少なくてすまない。」  「……でも。」  「大丈夫だ。きちんと許可を得ている。  後の事は何も心配いらない。」  夜光は項垂れながら身を起こす。強い緊張で胃が固まった感じがして、なかなか手が伸びない。  「先に温かいものを少しずつ飲むといい。」  百之助は味噌汁の椀を手渡す。  夜光はそれを両手で受け取り、湯気と椀から手の平に伝わる温かさを感じた。  枯れた表情に、自然と涙が流れた。  夜光はようやく食事に手を付ける。 百之助は夜光がむせないように背中をさすってやる。  喉に込み上げる塩気のせいで声を上げそうなのを堪え、夢中で口に含み、一口一口しっかりと噛み締め平らげた。  「ご馳走様……でした。  おいしかった……です。」  聞きかじった言葉で、意味を深く知らない彼だが、食べ終わった時に自然とそう呟いて手を合わせていた。  百之助は穏やかな表情の裏、奥歯を噛んだ。  (本当は祝杯を上げて、もっと美味いものを食べさせてやらんといけないのに……。戦ってくれた全員に……。)  食事の後は持ってきた着物を着せてやった。  「前に射貫が酔っ払って置いてった着物の丈をちょいと直したんだ。  角狩の狩衣を着せたら文句を言われそうなのでね。こんなので申し訳ない。」  「いや……とても温かい。ありがとう。」  
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