見えぬ化け物

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 今は昔、 人里離れた山に正体不明の人を死に至らすといふ化け物がおったそうな。 ある日のこと、 そんな化け物の噂を聞き付けた京に住む一人の若侍が「 そのような化け物など某が退治してくれるわ! 」 と勇んで旅に出ました。  男の名は清十郎。 京でも腕が立つとそこそこ言われておる侍だったそうな。  「おい、 この川を渡りたい。 」 「へい! 毎度! 」 清十郎が懐より渡し賃を出し船に乗り込むのを見届けた船頭はゆっくりと船を漕ぎ始めました。  「お侍の旦那は彼方側には何をしに行かれるんですかぃ? 」 ギィーコ、ギィーコと軋む音を立てつつ進む船の上で船頭が何気なく清十郎に尋ねました。 「山奥に住まう『人を死に至らす化け物』とやらを退治しに参る 」 「 な!? 旦那ぁ、 悪いことは言わねぇですからそいつはやめときな!! 奴には何人も挑んでやすが誰一人帰ってきた者がいやしねぇんです。 」 清十郎の言葉に船頭は顔を青くして必死に引き止めましたが、 ならば尚更自分が退治してくれるわ! と清十郎は一層気を滾らせてしまいました。
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