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終章 涅槃 -2
頭の中が真っ白になるほどの激痛に、俺は恥も外聞もなく喚きちらした。
「やめろ! やめてくれ!」
意識が戻ったとはいうものの、まだ体の方は指一本動かす力もねえ。これじゃあ嬲り殺しだ。
「なんじゃその口のきき様は。己の立場がまだ分かっとらんらしいのう」
蓬子が玉を握る手に更に力を込める。
こればっかりは男にしか知れぬ痛み。知らぬ女子には手加減もねえ。
「ぎゃあああっ! わ、わかった! 俺が悪かった! 謝る! 感謝してる! お前は命の恩人だ!」
すると蓬子はあっさり手を離し、再びニコリと笑った。
この鬼め!
「漸く判ってくれたか。
よいか、痛みとは生きたいという証なのじゃぞ。ぬしがいくら口先で死にたいなどとぬかしても、痛みを感じるうちは体が生きることを欲しておるということじゃ。
安心せい、ぬしが動けるようになるまで我が命を注いでやる。夜明けまではまだ暫く、時間はたっぷりある」
この、餓鬼とは思えぬ理屈っぽさと、男を男と思わぬふてぶてしさ。まるっきり撫子と同じじゃねえか。
俺はその誇らしげな顔を、まじまじと見つめた。
どうやら、あのおかしな状態からは完全に戻っているようだな。
あの光の壁、そして巨人……。とてもこの目の前にいる小さな娘がやった事とは信じられねえ。
だが……。
「お前、身体の方は何ともねえのか?」
「我か? うむ、何ともないぞ。我はあの寺に一人残され、ずっと撫子姉さまの御無事を祈り続けていただけじゃからの。
全て姉さまが始末を付けて下さった。ほんに素晴らしきお方じゃ」
何だと?
あれがこいつの仕業じゃねえ……。いや、そんなはずはねえ。
きっと撫子の奴が封印を施して、全てを忘れさせたんだろう。こいつの魂を守る為に。
待てよ、そういう俺の方こそ……。
俺は自分の状態を確かめてみた。
体はまるで動かねえが、なんとなく感じで判る。間違いねえ、獣じゃなく元の人間の体に戻っている。
それにもう一人の俺も……。
また俺と離れたのか。しかも子犬みてえに小っちゃくなっちまって、隅っこの方で丸くなって寝てやがる。なんとも幸せそうな顔で。
それに、あれ? なんだっけ? 何か大事なことを思い出したはずなんだけど……。
なんだよこれ、何もかも元通りじゃねえか。
「はーあ」
「何を溜息なんぞ吐いておる」
「別に、何でもねえよ。
ところで、ここは一体どこなんだ? それに撫子や村の連中はどうした、お前一人だけなのか?」
「そうじゃ。撫子姉さまは、もう行ってしまわれた」
「行った? お前一人を残してか?」
「うむ、ぬしのことは我に任すとの仰せじゃ。ここは、村から二里ほど下った辺りの川原じゃ。村の者達も皆無事じゃぞ」
「そうか……」
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