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風呂から上がって脱衣所で髪を拭いていると玄関のドアが開く音がしてしずくは顔を上げた。
「宗一郎さん」
濡れた髪もそのままに慌てて脱衣所を出ると、玄関に宗一郎の姿を見つけて駆け寄る。
「しずく」
少し驚いたようにこちらを見た宗一郎は、手に持っていた紙袋を床に置いて傍に来たしずくを抱きしめた。
「ん…っ、おかえりなさい」
「ただいま、遅くなってすまない」
ぎゅっと力を込められて宗一郎に擦り寄る。
触れたところから少し沈んでいた気持ちが晴れていくようで、しずくはほっと息をついた。
「髪、乾かさないとな」
頬に触れる濡れた髪に気付いた宗一郎に覗き込まれ、慌てて出てきた事を思い出して少し恥ずかしくなってしまう。
「ぁ…っ、スーツ濡れちゃいますね…!乾かしてきます」
「いや、それは良いんだが…夕飯は?」
「まだ…あ、あの…」
抱きしめていた身体を少し離した宗一郎が、首にかけていたバスタオルをしずくの頭に被せて拭き始める。
──やっぱり、食べておいた方が良かったのかも…。
会合なら食事も出るだろうし、宗一郎はもう食べて来たのかもしれない。
そんな事にも思い当たらなかった無知な自分が、ひどく恥ずかしい。
情けない気分で俯くと、静かになったしずくを不思議に思った宗一郎がタオルを避けて顔を上げさせ目を合わせた。
「…どうした?」
「宗一郎さん、もう食べてきましたよね…?」
「いや、必死で挨拶回りを終わらせたからろくに食べてない」
「ぇ…?」
驚きに瞬けば、宗一郎が微笑んでしずくの頬を撫でる。
「“約束”、したからな」
「ぁ…」
続けて首筋の痕に触れられて、赤くなったしずくは微笑んで頷いた。
そのまま唇に掠めるように口付けて顔を上げた宗一郎が笑みを深める。
「先に髪を乾かしておいで」
「…はい」
濡れた髪を優しく梳かれて頷いたしずくは、宗一郎に見送られながら脱衣所へ戻った。
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