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先ほどの人形が舞台上から、片付けられると、別の人形が運ばれてきた。
人形は、やはり俺から見て右の方を見ていた。
俺は、先ほどと同様に、数尺先の、真正面にある、からくり人形をじっと見つめた。
人形は、筆に墨を付けると、人形の正面に張り付けてある半紙に向かって筆を押し付けた。
そして、そのまま、真っ直ぐ右に少し進むと、筆を離した。
そして、先ほどの位置に戻ると、今度は少し下に筆を押し付けると、同様にして、二本目の線を引いた。
さらに、同様にして、人形は、字らしき物を書き続けたが、こちらからは、よく見えなかった。
しばらくして、最後に点を打つと、半紙が客の方に90度回り、人形が書いた字を見せた。
俺「ことぶき………」
そこには人形が書いた文字である、『寿』が
書かれていた。
隣の男「な、凄かっただろう。これが、儀右衛門もう一つの傑作の『文字書き人形』さ。やっぱりからくりじゃ、儀右衛門の右に出るものはいねえな。ハハハ………」
男は、俺の背中をバシバシ叩きながらそう言った。
男「じゃあ、俺は、先に帰るわ」
そう言うと、男は建物から出ていった。
俺は、建物を出ると、裏口に回り、興業の座長が出てくるのを待った。
男「おやっ、興業はもう終わりましたが………」
男は俺を見ると、そう言った。
俺「あなたが、『からくり儀右衛門』さんですか?」
儀右衛門「そうですが、私に何か御用ですか?」
俺「あのような凄いもの初めてみました。是非とも私を貴方の弟子にしていただけませんか?」
儀右衛門「すみませんが、私は弟子を採らない主義なのです。他を当たってください」
俺「いえ、貴方の弟子になりたいのです。是非ともお願いします」
俺は、その場に膝まづいて頼み込んだ。
儀衛右門「困ります。さあ、立ってください」
俺は、それならと、頭を地面に擦り付け、土下座をして頼んだ。
建物の裏手とはいえ、人通りはある通りで、土下座している俺を見て、通行人は何事が起こったのかと、集まり出した。
それに気づいた儀右衛門は、俺を建物の中へ急いで引き入れた。
儀右衛門「あのような場所で、あんな事をされては困ります。とにかく中へ………」
俺は、儀右衛門の興業の楽屋ともいうべき一室に案内された。
儀右衛門は、部屋に入ると俺に向き直り、こう言った。
儀右衛門「分かりました。とりあえず、他の従業員とともに、荷物運びなどをする人としてならば、採用致しましょう。宜しいですか?」
俺「それで、結構です」
こうして俺は、どうにか、あの『からくり儀右衛門』の弟子?になる事が出来たのだった………。
第5章につづく。
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