怒りの行方

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 目の前の子どもがむかついて仕方がない。  きっかけは些細なことだった。  日常でありがちなことだった。  何でも食べる子になって欲しくて、色んな野菜を細かく切ったスープと、時間を惜しまず愛情込めて作った野菜のすりおろし入り手ごねハンバーグ。味見をしてみて我ながらとんでもなくおいしく出来たと自信たっぷりに子どもの前に出したら、それらを一口も食べずふりかけごはんだけを完食して「ごちそうさま」と椅子から降りる息子。「一口でいいから食べて」と促したら「いや! 遊ぶの!」と喚き、皿を持った私の手を払いのけ、私の手から皿が落ち、滑り落ちたハンバーグが野菜スープをひっくり返し――――数時間かけた苦労が一瞬でゴミとなった。  頭が真っ白になる、という感覚を初めて体験した。  正直、食事の時にせっかく作ったご飯をひっくり返されるなんてしょっちゅうだったし、最早日常茶飯事とも言えた。「食べ物は大事にしなきゃ」と軽く叱り手際よく片づけていた。  そう、今も、そうすればいいだけ  それなのに、私の中で何かが爆発して視界を真っ白にさせた。 「なんてことするの!」   気が付けば私は声を荒げていた。その瞬間、嫌々の我儘だった息子の顔が一瞬で恐怖に染まり、ゴミとなった食べ物と私を交互に見て「まずいことをした」と言わんばかりの泣きそうな申し訳なさそうな表情に変化していった。  泣き出すか、言葉を発するか――  ああ、  最早どう動こうが  私の怒りの爆弾の導火線に火をつけることは間違いない
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