高遠颯斗、21歳。とうとう教習所に通う。

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 白々しくグレーの瞳が半月に細められる。 「ブレーキの使い方も勉強しておかないと、事故になりかねないからよく勉強しておくように。実地で」  語尾がいやらしく聴こえたのは、颯斗の気のせいだろうか。 「じっち、で……」  火照った颯斗の唇から、翔琉の言葉をなぞるような片言が洩れる。 「そうだ。知識はもちろん大切だが、路上に出るにあたって実地練習にも馴れておかないと困惑するだろう? S字クランクなど」  そう言うなり翔琉は、片手で器用に颯斗のルームウェアのズボンと下着を取り去ってしまう。  そして熱雄を握っていないもう一方の手の中指を、まだ何の準備もされていない窮屈な窄まりへ静かにそっと撫でた。 「っあ」  自然と颯斗の腰が揺れる。  けれど充溢した熱の放出をせき止められているせいで、もどかしく大腿の内側を擦りつけてしまう。  頭上でにやりと笑む気配がして、スラックスのバックポケットから携帯用ローションの小袋を取り出し、その端を口で咥えると手際よく封を切った。  とろとろと粘着のある液体が、翔琉の掌に零れていく。  下腹の腹筋が、条件反射のようにぴくりと脈打つ。 「クランクは、とにかく数をこなしてハンドル操作とブレーキをかけるタイミングを身体で覚えるのが一番だ」  今の俺たちのように、とローションをまとった翔琉の中指が、奥の膨らみへ届くように曲げながら侵入してくる。  あ、変な声が出ちゃいそうだ……。  咄嗟に颯斗は両手で口を塞いだ。  耳に毒な淫猥な蜜の音が、鼓膜を震わせる。  受け入れるのは久しぶりであったが、いつも長大な翔琉を呑み込んでいる颯斗の後孔は、当然指一本の刺激だけでは物足りなくなってしまう。  無意識の行為だった。  ねだるように浅ましく腰を振りながら、翔琉の指へ気持ちいいところを押しつけてしまう。 「颯斗は教え甲斐があるな。こんなふうに自らおねだりができるようになっただけではなく、俺を煽ることまで上手くなったんだから」  ぐぷ、と最奥で蜜の粟立つ音が聴こえる。  なにを言ってるのだろう、と理性を情欲に支配された颯斗は思った。 「ぁああっ」  快感を与えられて、塞いだはずの手がふいにぶれる。  すぐさま翔琉が、静かに、と窘めた。  そして手の代わりに唇で、颯斗の嬌声を封じる。  キスが与えられたのだ。 「んんっふ、ぅ」  颯斗の全身が歓喜する。  しかし相変わらずブレーキをかけられたままの熱雄に、目の縁へ涙の雫が溜まってしまう。 「泣いてるのか?」  唇を離した翔琉が、目許へくちづける。  触れた感触が、火に油を注ぐように颯ますます颯斗の身体を翻弄させていく。  手を放してほしい。  指をもう一本……いや、翔琉自身を挿入れてほしい。  どうにかしてほしい。  気持ちよくしてほしい。  それ以上颯斗は、ほかのことを考えられなくなっていた。 「……翔琉っ、お願っ……し、ます……はっぁあ、もうどちらかぁ」  下腹の代わりに熱いものが目尻がこぼれる。 「どちらか、がなんだ?」  リップ音を立てて目尻から頬へ、それから顎までの涙がこぼれたルートへ翔琉はキスをしながら、意地悪く翔琉は問い返す。  つきあって数年。  情事へ突入したときの翔琉のこの尋問にも、いい加減颯斗は馴れ……てはいない。  流れ的に懇願しないとその先へ進めないことは重々承知で、だが可愛くねだることなど到底難しい颯斗は、いやいやと先を読んで首を振ってしまう。
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