髪を切る

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髪を切る

 その日、私は唐突に髪を切りたくなりました。  どうしようもない、衝動。髪を切りたくて居てもたってもいられないのです。  そもそも、昨年行ったグアム旅行の写真を見た際、髪が荒れているのが気になってから、髪は切りたかった。  もっと言えば、去年の夏には美容師さんに「そろそろ切ります」と断言していたのだから、唐突と言うのは少し違うのかもしれない。  それでも私には沸き上がる感情を『唐突』だと思ったし、普段はかなり前から予約をして赴く美容院に、翌日行きたいと電話したのは端から見ていた中学生になる娘から見ても唐突だったようだ。  かくして、私は馴染みの美容院で背中の真ん中まで届くロングヘアーをバッサリと切った。  何年かぶりのボブヘア。白髪があるので普段はあまり明るい色に染めないのだが、今回はいつもより明るい色にしてもらった。    整った髪を満足げに見つめる鏡の中の私。後悔は微塵もない。ただただ清々しかった。  どうしても、あの日髪を切りに行きたかった。不思議なことに、髪を整えた事で私は母の葬儀にここ最近では一番美しい髪の状態で参列出来た。  そして母も、私より遅れること数日後にたまたま美容院で髪を染めていた。  私たちはこの後起こる慌ただしい日々に、知らず知らずに備えていたことに、今考えると驚くばかりなのだ。
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