弱小合唱部がコンクール地区予選を通過した理由

　夏休みが明けたらコンクールの地区予選が控えている合唱部は今日、新しい伴奏者を迎える。前任の伴奏者の大石さんが結婚して遠くへ引っ越すことになり、後輩だという音大生を紹介してくれたのだ。
「すごく熱心な子だし、色々アドバイスしてくれるかもよ」
　大石さんからそんな情報は聞いていたけど、連絡は電話ばかりで実はまだ会ったことはない。相葉百合恵さんという名前と声しか知らないので、初対面となる今日おれはぼけっと彼女の到着を待っているのだ。
　それにしても「大学生」ってなんていい響きだろう。おれだってちょっと前までは大学生だったわけだけど、卒業して生意気盛りの中学生の相手をしていたらあっという間に涸れてしまった。なんというか、学生時代の煌めきとか瑞々しさみたいなものが。
　大人になるってこういうことなの？などと黄昏ているうちに、校門から人が入ってきた。