バビ様に出会う旅

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 はるばる五千五百キロも離れたインドネシアまで飛び立った理由はひとつ、僕たちは子供が欲しかったのだ。  ※ ※ ※ ※ ※  バリ島のングラライ国際空港に到着したのは、午前零時目前の真夜中だった。税関を抜けた途端、ムッとする湿気に驚く。日本とは、気温が二十度も違うのだ。玲子と顔を見合わせて、「ダウンコートが恥ずかしい」と笑いあう。  ガイドブックに、『バッグを運んであげようとする親切な人』や『通路に立つ両替商』は十分注意するようにとしつこく書かれていたので周りを警戒しながら歩いたが、なんのことはない、この時間では空港自体閑散としていて怪しげな人すら見かけることはなかった。  駐車場でホテルからの送迎車に乗り込む。街灯りがまぶしいのは空港周辺だけで、二分も走ると信号機以外は灯りが無く、窓外は真っ暗。南国の景色を楽しむことすらできない。玲子はすでに寝息をかいている。僕も寝落ちしかけた頃、ホテルへと到着した。  広々とした石造りのロビーに目を奪われながらチェックインをすませる。署名欄に『杉山俊明』と漢字で書きこんだあと、そうじゃないと気づいて『SUGIYAMA TOSHIAKI』と付け足す。  玲子は部屋につくなり靴を脱ぎ捨て、ベッドで大の字になった。僕は冷蔵庫からビンタンビールを取り出し、とりあえず喉を潤そうとする。彼女が「あたしも」と催促したので、マンゴージュースを手渡し、バリ島到着を祝って乾杯をする。僕がすっきりとした苦みに喉を鳴らすと、彼女の方は眉根を寄せて舌を出していた。どうやら甘すぎたようだ。  さっそく外出して夕食でもと思ったが、真夜中過ぎに開いている店など無いだろう。ルームサービスを頼むほど腹が減っているわけでもなく、シャワーだけ浴びて寝ることにした。南国を味わうのは、明日の僕らに託すことにする。  ※ ※ ※ ※ ※
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