プロローグ

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プロローグ

 朝、布団の中で目覚めると、ボクはいつもこう考えていた。 ――ああ、死にたい。 ――また楽しくもない一日が始まる。 ――死ぬまで生きなければならないなんて、うんざりだ。  ボクはなぜか、小さいころからずっと死にたかった。生きているのが苦痛だった。  いつでも死にたいボクは、ミステリー小説や実際に起きた事件について書かれたレポートを読み漁っては、最高の死に方の研究ばかりしていた。  そんなボクがなぜ探偵になったかって?  それは幼馴染で唯一の友人カゲハルのせいさ。  あいつにそそのかされて、なぜか探偵をやる羽目になった。  死のうとしていたボクが、探偵になって犯人と対峙し事件の真相を暴くことになろうとは、ハタチ過ぎるまで夢にも思わなかったさ。 「トキオは、本気(マジ)で死にたいと考えていたの?」  ここはオーセンティックバー。  並んで座っているのはボクの恋人リス。  彼女は、サラサラの黒髪を耳に掛ける仕草と共に、ウイスキーの水割りを飲んだ。  その小さな横顔はとても美しい。白磁のような肌。桜の花びらのような唇。瞳の色は黒。髪も黒。白い肌に黒がよく映える。  リスはとんでもなくいい女で、どこに行っても男たちの視線を集める。  彼女がボクの恋人であることは、地球の奇跡だと思っている。  ボクがいくら死にたいとこぼしても、彼女は心配しない。  ネガティブなことを言っても深刻に受け止めないから、却って気楽に話せる。  それが彼女に惚れた理由でもあった。  ボクは、白夜(ビャクヤ)世緒(トキオ)。死にたいくせに探偵をしている。通称「死にたい探偵」  亜黒(アクロ)影玄(カゲハル)相棒(バディ)。  ボクとカゲハルは、一緒に探偵事務所を作って様々な事件に首を突っ込んできた。  リスとのデートでは、ボクの武勇伝を語って聞かせるのが常だった。 「今度、カゲハルさんを紹介してよ。どんな人か興味があるの」  カゲハルのことを話題には出しても、二人を会わせたことはなかった。 「今は海外に行っているから無理だな」  ボクはいつも曖昧な返事でお茶を濁す。  リスにカゲハルを会わせる気は毛頭なかった。  彼女がどれだけ懇願しようが、これからも決してないだろう……。  リスがねだる。 「もっと聞かせて、二人のお話」  探偵になった経緯を詳しく知りたがるリスに負けて、ボクは成り行きを話して聞かせた。
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