ほのかとリク

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ほのかとリク

商店街のケーキ屋にとって、お祭りなどのイベントはとても重要だ。とくに近所に大型ショッピングモール、SIONかできてからは。 全国的なお店に品揃えや値引きではまずSIONに勝てない。なので商店街はここにしかないもので勝負しなくてはならない。 だからさくら商店街は桜の咲く時期、よそからやってくる花見客に合わせてさくら祭りと言う、限定商品やセールを売り出すことになっていた。 うちのケーキ屋もさくら祭りで桜味や抹茶味のマドレーヌやフィナンシェを売り出すつもりだった。そして私も小学校を卒業したばかりの新中学生だけどその日だけはずっとお店で働く事を許される。一年で一番楽しみな時と言っていい。 「さくら祭りが中止!?」 なのに、お父さんもお兄ちゃんも、ショーケースの前で暗い顔をして、さくら祭りの中止を言い出した。小学校を卒業して、早めの春休みの夕方の事だ。 「今朝、このチラシがさくら祭り実行委員の家のポストに入っていたらしいんだ。この時代、何かあっては遅いからね」 お父さんがレジに出したのはできたばかりのさくら祭りのポスター。ただしその上に水性顔料のペンで乱暴にばってんをつけ、その上に書かれている。『さくら祭りを中止しろ!』と。チラシは全体的にインクでベタベタだった。 「こんなことで中止になっちゃうの?」 「これは脅迫チラシで、もしもほのかや子供が狙われたら大変だよ。それにここで対策をしないと、『この地域は危ないことがあっても何もしない』とされて別の犯罪者が来るようになってしまうからね」 ……確かにお父さんの言うとおり、このチラシを送りつけた犯人は何をするかわからない。それにここで対策をしないと、犯罪者達に『ここにいいカモがいますよ』と言ってるようなものだ。 でも、だからといってさくら祭り中止に納得はしない。せめて犯人がわかればいいのに。 「このチラシ、SIONの仕業じゃないの? 私達が盛り上がると困るから」 「SIONは商店街なんかをわざわざつぶさなくてもやっていけるだろ」 私はさくら祭り中止で誰が一番困るかと考え、SIONを思い浮かべた。しかしサチお兄ちゃんは否定する。SIONは悲しいかな商店街なんか眼中にない。わざわざ潰さなくても、勝手にこっちが潰れるのを待っていればいい。 「すみません、チラシの件で来ました」 のんびりやってきたのは同じ商店街の和菓子屋の息子、リクだった。 リクは私のライバルだ。ケーキ屋の娘と和菓子屋の息子で、同い年。背が高くて無愛想で威圧感があって、いつも私が勝負を挑んでもそっけない。 このさくら祭りでも売上や盛り上がりでリクと勝負したかった。なのに祭りは中止。これからリクも中止の話を聞くだろうけど、きっとなんてことないように振る舞うのだろう。商店街の盛り上げようとする私をばかにするみたいに。 リクはお父さんから話を聞いて、チラシを一瞬だけ見た。 「これ、犯人を捕まえましょう」 そして出されたリクの答えはとても信じられないものだった。あの無気力なリクからそんな言葉が聞けるなんて。
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