愛人生活

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愛人生活

豊が待っている部屋に通された蘭子は、食事の用意がされているのを見て 嫌な顔をし、高倉を振り返ると、小声で 「食事するって、言って無かったじゃない」と、なじるように言った。 「えっ、お食事は駄目なのですか?」高倉は、面食らった顔で言った。 「もう良いわよ」ぷいっと顔を戻し、豊の傍に行くと 「今晩は」とだけ言って、自分の席に座った。 「何か有ったのか?」豊の声に、高倉は、困った顔になったが 蘭子は、澄ました顔で「いいえ、何も」と、答えた。 「そうか、じゃ、二人にしてくれ」「はい、失礼します」 直ぐに、ウェイターが、スープを運んで来た。 はしりのマツタケが入った、コンソメスープだった。 「話の前に、まず食事をしよう」豊はそう言って、スープを飲んだが 蘭子は、スープに手も付けなかった。 「どうした、食べないのか?」「私、このスープ要りません」 「えっ」豊は、ウエィターを呼んで、スープを下げさせた。 それから、次々に出される料理にも、蘭子は、ほんの少し食べるか 全く手を付けないで下げさせる、料理長がやって来た。 「本日の料理は、お口に合わなかった様で御座いますね まことに申し訳有りません」と、頭を下げる。 蘭子は「御免なさい、私が悪いのです、酷い偏食で 食べられない物が多すぎて、外食は無理なんです。 今日、お食事だと分かっていたら、前もって、お断り出来たのですが 嫌な思いをさせてしまって、本当にすみません」と 椅子から立ちあがって、深く頭を下げた。 料理長は、吃驚して「何をおっしゃいます、お客様のお好みを 伺わなかった、私どもの、手落ちで御座います、お許し下さい。 もし、宜しければ、お客様のお好みをお聞かせ願えますか? 少しは、お口に合うものが、お出し出来るかと思います」と、言った。 蘭子は、豊を見た「いや、急にお願いした私が、一番悪いんだよ さ、料理長にお話ししてあげなさい」豊かにそう言われて 「じゃ、メモをお願いします」そう言って、蘭子は、驚くほど沢山の 食べられない物を言った、好きな物は、本当に少なかった。 「ねっ、酷いでしょ、とても料理はお願いできないんです」 料理長は、優しく笑い「そんな事は御座いません、このメモを元に きっとお口に合う物を、作らせて頂きます」そう言うと 大きな皿に、蘭子が好きだと言った物を、可愛く盛り合わせて出し デザートは、大好きなフルーツで囲んだ、シフォンケーキを運ばせた。 蘭子は、大喜びで、ぺろりと食べ、豊も料理長もほっとした。 食事が済むと、離れの部屋に移った、贅沢な造りの部屋だったが 明らかに、逢引の場所だと分かる。 豊は、対面した蘭子を、愛しそうに見て 「私の事は、もう忘れちゃったのかい」と、聞いた。 何も分からない時は、黙っているに限る、そうすれば 向こうからヒントをくれる。
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