~第壱幕~

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今夜空に浮かぶ月は、何処か紅く輝いているように見えたー。 そんな紅い月の下、四方人集りの繁華街を掻き分けるように進む一人の青年は、月にも似た紅い瞳と、その背には子供の身の丈程もある大きな竹刀袋を背負う。 まるで女性のように整った綺麗な顔立ちは、それに不釣り合いな程に刃のように鋭い眼光で、また女性のように襟足で結われた綺麗な黒髪は、風を切るように勢いよく進む度に滑らかに揺らぐ。 青年の名は"火渡翔次"。 人間とは似て非なる"久神"と呼ばれる種族であり、その内には鬼のような意志の強さを持つ、現代の"侍"と呼んでも過言では無い。 そんな翔次がこの地に訪れたのには理由があった。 「…妖気…」 この世には、"幻妖"と呼ばれる異形が存在する。 それは、時には人に成り済まして人に紛れ、時には本能の赴くままに人を襲って人を喰らう…所謂、現代に生きる妖怪のような存在だった。 この世の全ての幻妖を斬る…それが翔次の旅の目的であり、この地へ訪れたのもそんな幻妖の存在を察知しての事だった。 そんな幻妖が放つ凶々しい気配…妖気を追って翔次の歩は更に速くなるが、しかし妖気を感じる方へ近付くもその本体は見当たらない。
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