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苦労と疲労
「おい福澤……お前、部屋の荷物どうにかしろよ。引っ越して何日になるんだ」
人の部屋にズカズカと入ってくるなり不満を言ってくる男を、首だけ向けて見る
「今、締め切りが近いんだよ……片付けなんていつでも出来るからいいだろ~」
「……そう言って何週間経った?」
図星を言われてウッと声を出してしまう
大学生の入学式を迎えた日から、引越して一人暮らしを始めたはいいがろくに手もつけずにある程度の生活が出来ればいいとゴミやダンボールがそこら中にある
足の踏み場がないと言われればそうだが、しかし寝るテリトリーだけは無傷……最早ベットだけは別空間かのくらい物がない
「……うちに来る奴なんて、涼太郎くらいだし。別にいいじゃんか 」
「いい訳ないだろう。来て玄関に早々とダンボールがあったんだぞ……お前『大学では彼女作るぞ~』って言ってたのにもう諦めたのか?」
「うっせぇ~!お説教なんて聞きたくない!」
まるで母親かのようにグチグチと言う男は、小学校からの腐れ縁の幼馴染みである岡倉涼太郎だ。くそ真面目な性格で、俺の第2の母親みたいに小煩い
昔の頃は俺の方が身長が高かったのに、体力をつけると言い中高と運動部に入るや否……馬鹿みたいにメキメキと身長を越しやがった。今じゃ180も近いんじゃないかと、羨ましい悔しいのダブルパンチだ
「……てか締め切りって、お前大学入っても続けてんの?」
「続けるも何も趣味の一環だし。実家出れた分、好きな時に大音量で作業が出来る最高の空間だ」
向けていた首をモニターへと戻しペンを動かす。絵を描いているだけなら親がいきなり部屋に来ようとそれは別にいい、けどそれがただの絵ではなく……男同士の戯れとしたら?話は全く変わる
「よく描けるな……逆に見てて尊敬する」
足元の荷物を超えてきたのか涼太郎が隣で立っているのに気付き、顔を見上げる
あまり見ない顔の角度と、成長した凛々しい幼馴染みの顔に俺は釘付けになる。涼太郎は父親似なんだろうなと思うくらい、男らしい顔立ちで鼻筋も綺麗だし目なんか理想通りの切れ長だ
「……涼太郎、こっち向いて」
「何……いきなり?」
「いや何度見てもさ、涼太郎って俺の理想像の攻め!って顔してんの。改めてまじ好きだわ……」
まじまじと見ると狼狽えるように目線を逸らされ「それ毎度言うよな」と返されるも、見つめ続けていればデコピンを喰らわされた
「っいて~~!いいじゃん、カッコイイって言ってんだから普通に喜べよ」
「……お前だって別に悪い顔じゃないだろ、高校の時だってモテてたんだし」
デコピンされた額を擦りながらも、思わず己の顔を鏡で見るも毎朝見たくなくても見てしまうマヌケ顔に呆れてため息をついた
涼太郎みたいな男前じゃないし、美形な顔立ちでもない……見れば見るほど特徴がこれと言って無い面白味に欠けた自分の顔。特に悪いわけじゃない、かと言って良いわけでもないということでもあるということを意味している
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