トントン拍子

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「サラリーマン辞めて、バーをはじめようと思う」  そう言ってあいつ、なんと俺の右腕に店をオープンさせた。とんでもないやつだ。  右腕に設置された、マホガニーを使った高級感漂うカウンター。あいつはそこから、グラスをキュッキュッと磨きながら俺に言う。 「迷惑だったか?」  俺は黙ってしまった。正直、迷惑だった。いや迷惑というより不便極まりなかった。そっと腕を動かしてやらないと、カウンターの酒瓶がぜんぶ横倒しになってしまう。そんなワケだから歩くのもゆっくり。腕を振ろうものなら、バーどころか、あいつがどうなってしまうかもわからない。それだけじゃない。バーにお客が入ればトイレだって自由にいけない。もっと言うと、酔ったお客がうるさくて、眠れない夜だってある。  でも俺は言わない。代わりにこう答えるのだ。 「ほかに良い場所はなかったのか?」と俺。 「ここが一等地だと踏んだんだ」とあいつ。
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