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いつものように賑わう、土曜日のサンダー&ライトニング。しおんはジンライムを呑みながら、和馬が叩くLIVE WIREを聴く。
店内の小さなステージで、一晩に幾度も繰り広げられるセッション。来店客が主体だが、足りないパートはスタッフが補う。オーナーであり、ベテランヘヴィメタルバンド・ケルベロスのドラマーである和馬とセッションをしたい、彼のプレイが聴きたい、という理由でこのメタルバーを訪れる者は少なくない。
今日はもう三度目のステージだ、と和馬はしおんに言い残してステージに向かった。楽しそうに。
パートナーである和馬とは生活を共にしているけれど、しおんがここへ訪れるのは仕事の都合上、基本的にはこの土曜日だけだ。
自宅で寛いだ表情の和馬も勿論良いけれど、しおんが最初に彼を好きになったのは、ドラムをプレイする姿だった。だから、毎週末に、こうして彼のプレイを生で見られるのは幸せだ。
曲が終わり、和馬はスティックとグローブを置いてステージから降りて来た。セッションをした客と共にテーブル席に行き、乾杯をしている。感想を話し合ったりするので、もう暫くはカウンターへは戻って来ない。
セッションの間止まっていたBGMが再び流れ始める。PANTERAだ。タバコに火をつけて、それに耳を傾ける。ずっしりと重い低音と聴く者の鼓膜を切り裂くようなギター。スラッシュメタルと呼ばれているケルベロスとは共通点があり、しおんも気に入っている。
ヘヴィメタルは和馬と出会ってから聴き始めたので、まだ1年半程の初心者だが、和馬のレクチャーと自宅に溢れんばかりの彼のコレクションで、しおんも一通りはわかるようになった。まだ詳しい、とまでは言えないレベルだが、それでもここに来るメタルマニアたちと、楽しく話が出来るくらいにはなった。
「しおんさん、今日ご飯どうします?」
スタッフの大悟が、カウンターの中から声を掛けてくれる。
前バイトリーダーの颯太が自身のバンドでメジャーデビューしたことに伴って出勤が不定期になった為に、新しく採用されたギタリストだ。明るいキャラクターで人懐っこく、毎週末に来るオーナーのパートナーという立場のしおんにも、すぐに馴染んでくれた。
前職が居酒屋のキッチンだっただけに料理が得意で、彼が入って以来、週末はちょっとした日替わりメニューを出すようになった。
「んー、どうしよっかな」
夕方に自宅で少しだけ口に入れて来たので、それほどお腹は空いていない。
「今日の日替わりメニュー、何?」
「ラーメンですよ。塩ラーメン」
「美味しそうだねぇ…っていうか、そんなのまで作れるの?」
「いやぁ、そりゃラーメン屋にはかないませんけど」
「ラーメン屋に勝っちゃったら、ここ何屋さんかわかんなくなるよぉ。じゃ、ラーメンだったらもっと後にするね。まだ呑んでるもん」
「ですよね」
どうせラーメンなら、シメに食べたい。閉店間際でいいだろう。
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