ザ・テンペスト

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 ***  大富豪において、重要とされること。それは、強いカードを出すタイミングと度胸、同時に記憶力である。  特に、J、2、A、スペードの3は出た枚数を覚えておく必要があるのだ。メモを取ることは許されていない。とにかく暗記し続ける記憶力と、それを保つ強い心臓が必要なのである。  私にとって幸いだったことは。あとの三人は、そういったカードを数えておく余裕があまりないタイプの人間であったらしいということだろうか。  第二回戦が終わった時点で、私は富豪の地位を獲得していた。 「革命返しだ」  4の四枚揃いを出し、私は宣言した。残り三人から悲鳴が上がる。特に、革命が起きたことに油断してせっせと上位カードを処分していた貧民の小太りの男、大貧民だった中年女性の二人が絶望的な顔をする。――彼らはおかしいと思わなかったのだろうか。二回戦以降はカードの交換が発生し、必然的に下位カードは貧民と大貧民に集中する。にも関わらず、何度も彼らも親になったのに3や4といった下位カードがほとんど出てこなかった。つまり、貧民大貧民の二人も3や4を持っていなかたっということ。実際私が貧民の男性に渡したカードは5と6という組み合わせであったのだ。貧民大貧民がそれらの最弱カードを持っていないなら、一体どこに溜まっているのか。  タイミングがなかったわけでないのだとすれば――富豪や大富豪が、あえてトレードに出さずに手元で温存した可能性が高い。  そして温存したということはつまり、階段や二枚以上の揃いになっていて渡したくなかったということに他ならないのだ。3や4といったカードは、そのままならただの下位カードで出すタイミングがほとんど得られない。出すならば揃いや階段を作るか、親になるしかないのである。 ――さあ、お前らは気づいているか?何で俺が4の四枚揃いなんかで革命返ししたのか、を。  もはや、あの二人は自分の敵ではない。敵になるのは二回戦で大富豪をかっさらい、必然的に持ち札が良くなっていたはずの美女のみである。その彼女も、先ほど革命が起きた時に2やAを積極的に場に出して処分してしまっている。自分のように、手元に温存しておくということはしていないだろう。  だが、まだこの場にはジョーカーが出ていない。ジョーカーは一枚ならばどんな相手にも勝てる絶対の切り札だ。ギリギリまで取っておこうと思うのは当然のことではあるが。
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