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【あとがきにかえて】
私が先輩のスキャンダルを知ったのは、育児休暇から復帰して間もないころだった。
笑顔の絶えない明るい先輩と。
そっと笑いの種を提供してくれる、少し陰のある穏やかな係長。
その2人がまさか。
正直――驚きが隠せなかった。
先輩の旦那さんは穏やかで、時折子供のことを話してくれる優しい人だった。
今はもう、元だけれど。
社内でも仲良し夫婦と通っていただけに、その噂を聞いた私は嘘だと一蹴した。
6年経った今でも、まさかとしか思えない。
本当は先輩に一目散に問いかけたかったけれど、あまりにも大きなスキャンダルすぎて、軽々しく触れられなかった。
おまけにもう本社には戻らないと聞く。
永遠に支社回りしかさせないらしいと聞いて、慕う先輩だっただけに悲しかった。
先輩がそんなに悪いことをしたのだろうかと、今でも不思議に思う。
思うけれど、子供を置いて出ただなんて余程のことだろうと、想像して胸が痛かった。
子供の話をあれこれしていた先輩を思い出す。
その時の表情を思い出しても、ただただ心が鈍く痛む。
そんな折、ついに先輩と話す機会ができた。
たまたま支社からかかってきた電話を私がとっただけ、だけれど。
「え……? あれ? 優花、……先輩?」
「久しぶり~元気にしてる?」
軽い声に、思わず声が上ずる。
涙が出そうになった。
先輩、聞きました。
なんてことしたんですか。
どうしちゃったんですか。
たくさん問い詰めたいことはあったけれど、どれも言葉にはできない。
「元気ですよ! 先輩こそ、元気なんですか!?」
勢い込んで、怒ってるみたいに聞いてしまった。
本当は違う。
心配で心配でたまらなかった。
あんな優しい人が、不倫だなんて信じられなかった。
もしそれが真実なのであれば、それだけのことが、何かあったんだろうと思っていた。
でも、それを聞くこともできない。
会える距離にもいない。
「元気よー。あ、心配してくれた?」
「心配っ、したに決まってるじゃないですか!!」
「はは、そっか。うん……元気です、大丈夫」
カラカラの元気な声を少しひそめて、真実元気だからと暗に伝えてくれた。
本音で言ってくれたその言葉が、私だけと言うほどのことでもないのに嬉しい。
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