【あとがきにかえて】

1/4
228人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ

【あとがきにかえて】

   私が先輩のスキャンダルを知ったのは、育児休暇から復帰して間もないころだった。  笑顔の絶えない明るい先輩と。  そっと笑いの種を提供してくれる、少し陰のある穏やかな係長。  その2人がまさか。  正直――驚きが隠せなかった。  先輩の旦那さんは穏やかで、時折子供のことを話してくれる優しい人だった。  今はもう、元だけれど。  社内でも仲良し夫婦と通っていただけに、その噂を聞いた私は嘘だと一蹴した。  6年経った今でも、まさかとしか思えない。  本当は先輩に一目散に問いかけたかったけれど、あまりにも大きなスキャンダルすぎて、軽々しく触れられなかった。  おまけにもう本社には戻らないと聞く。  永遠に支社回りしかさせないらしいと聞いて、慕う先輩だっただけに悲しかった。  先輩がそんなに悪いことをしたのだろうかと、今でも不思議に思う。  思うけれど、子供を置いて出ただなんて余程のことだろうと、想像して胸が痛かった。  子供の話をあれこれしていた先輩を思い出す。  その時の表情(かお)を思い出しても、ただただ心が鈍く痛む。  そんな折、ついに先輩と話す機会ができた。  たまたま支社からかかってきた電話を私がとっただけ、だけれど。  「え……? あれ? 優花、……先輩?」  「久しぶり~元気にしてる?」  軽い声に、思わず声が上ずる。  涙が出そうになった。    先輩、聞きました。  なんてことしたんですか。  どうしちゃったんですか。    たくさん問い詰めたいことはあったけれど、どれも言葉にはできない。    「元気ですよ! 先輩こそ、元気なんですか!?」    勢い込んで、怒ってるみたいに聞いてしまった。  本当は違う。  心配で心配でたまらなかった。  あんな優しい人が、不倫だなんて信じられなかった。  もしそれが真実なのであれば、それだけのことが、何かあったんだろうと思っていた。  でも、それを聞くこともできない。  会える距離にもいない。  「元気よー。あ、心配してくれた?」  「心配っ、したに決まってるじゃないですか!!」  「はは、そっか。うん……元気です、大丈夫」  カラカラの元気な声を少しひそめて、真実元気だからと暗に伝えてくれた。  本音で言ってくれたその言葉が、私だけと言うほどのことでもないのに嬉しい。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!