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高校校舎の三階、昼休憩時間の廊下は生徒たちで溢れそれなりに賑わっていた。生温く漂う空気を真ん中から寸断するように颯爽と歩くのは、二年六組の羽犬塚マヤだ。
教室にいると同じクラスの生徒との会話が中心になってしまうが、廊下に飛び出したとたん開放的な気分になり、クラスの違う生徒たちが集まって話に花が咲くことがよくある。
マヤは名前のわりにはよくいる地味めの女子高生で、不細工でも美人でもない。よく言えば害のない、悪く言えば中身も外見も凹凸のない面白味のない人間、少なくとも自分ではそう思っていた。
そんな彼女は今、一世一代の決心で廊下を闊歩し、文系クラス一組から五組の教室が立ち並ぶ反対側の区画への侵入を試みていた。
理系クラスから遠く離れた三組に用事があり向かっていたのだが、知らない顔が徐々に増え出し急に居たたまれない気持ちになってくる。
ようやく三組に到着し、がやつく教室内を見渡すと、同じ中学だった女の子がいて一気に心許なさが快方へと向かっていった。
「涼華ちゃん!」
涼華と呼ばれた彼女は、橘涼華。こちらも華やかな名前だったが、見た目はほぼ真っ黒に焼けた男の子だった。
涼華は中学のころからソフトテニス部で、高校に入ってからも入部し継続してプレイしていた。背は高くも低くもないが細くて筋肉質、髪はショートカットで、遠くから見れば夏休みに昆虫集めに精を出す小学生の姿のようだった。
「どうしたの?」
昼食を食べ終わり、みんなとまったりおしゃべりをしていた様子が一目でわかった。
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